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大学生と講師のシリーズ


 三月に入っても、あまり暖かくなった気はしなかった。早智子はそのことに少しだけ感謝する。滅多に着ない、けれどお気に入りの真っ赤なコートを着る、いい機会だったからだ。
 三月。大学生は暇だ。テストも終わり、追試もない。理系じゃないから、研究室通いもない。アルバイトに精を出しつつも、読書とうたた寝と遊びの日々。それはそれで楽しい毎日ではあるのだが、早智子は物足りなかった。

 電車が目的の駅に着き、早智子は混んだ車内を何とか抜け、ホームに立った。髪をアップにした首筋には、マフラーはしていない。すっとつめたい風があたり、早智子は少しだけ身震いした。
 早智子は再び人混みにまぎれながら、駅の改札口を抜け、駅の北口へと歩いた。途中、携帯電話で時間を確認し、余裕があるとわかった早智子は、化粧室に入り、もう一度鏡で全身をチェックした。

 短い丈の赤いコートの下からは、白い、ふわふわとした柔らかい素材のミニのワンピースのすそと、細かいダイヤ柄の黒いレギンス、焦げ茶色の編み上げのショートブーツをはいた脚がにょっきりと伸びている。レギンスはサイドに黒い蝶が舞う柄のもので、今日のために迷いに迷って買ってきたものだった。
 ブーツのかかとは五センチ。歩きやすく、けれど脚のラインは綺麗に見える。それが気に入って買ったものだ。

(大丈夫)
(特別綺麗じゃないけど)
(悪くない、レベルくらいには)
(なってる)
(……はず)

 待ち合わせの時間までは、あと12分。焦る必要はないが、少し早めには着いておきたい。鏡をこれ以上見つめたところで、急に美しくなれるわけでもない。早智子はそう自分に言い聞かせて、ほんのりとした色付きのウォーターリップだけを塗り直して、待ち合わせ場所の駅北口前のポストへと歩き出した。

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