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大学生と講師のシリーズ


 一番近い日付は、土曜の夜だった。今からで間に合うのか、と疑問に思いながら、早智子はとにかく返信の手紙を書いた。
 一番早い日付にすれば、うまくすれば次の空いている日に約束できるかもしれない。そんな、淡い期待もあった。
 土曜の夜には、本当は合コンの予定が入っている。けれどもとよりただの人数合わせでしかない自分がいなくなっても、そうは問題にならないだろう。人数合わせの人員を捕まえるのには多少苦労するかもしれないので、こちらで見つけてから連絡すればいい。
 早智子はそんな風に考え、今度はハガキでなく、レターセットを取り出した。
 可愛すぎず、けれど、無愛想過ぎないもの、そして、縦書き可能なもの、と、持っているレターセットの中から選び出したのは、淡い水色の地色に白いレース柄のものだった。


 前略、
 先生、早速のお返事に感謝します。
 先生が、私についての色々なことを
 気にして下さっていること、
 感謝してもしきれないほど、
 本当に、本当に、嬉しいです。

 さて、日程の件ですが、
 先生のご都合のよい日は全て、私も空いています。
 よろしければ、十四日の土曜日、
 十五時から空きとのことですので、
 十四日、十六時に、S駅南口のポスト前で
 お待ちしています。

 では、取り急ぎ、用件のみ、
 乱筆乱文にて失礼いたします。

              かしこ、
 松下祥先生
             三浦早智子


 早智子は、それを速達で出した。
 S駅は学校から一番近いJRの駅だった。松下の行動半径を早智子は知らない。だから、一番わかりやすい待ち合わせ場所にしたつもりだった。南口のポストは、改札からでもバス停からでもすぐに目に入る。待ち合わせ場所としては、すれ違いが少ない場所だ。
 そうして、今に、至る。


 バレンタインからひと月めの今日、早智子はお返しを用意していた。渡すか渡さないかは、その場の雰囲気に任せるつもりだったけれど、鞄の中には用意していた。黒い小さな鞄に忍ばせることができるだけの質量のお返し。
 歩くうちにポストが見え、早智子はあたりを見回したが、まだ松下の姿は見えなかった。
 軽い安堵と失望とを内に抱えながら、早智子はポスト前に立つ。携帯電話の番号などを知らないお互いにとって、既に連絡をする術はない。ただ待つことしかできない。それはひどくどきどきする感覚だった。

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あきゅろす。
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