大学生と講師のシリーズ
わたしのための優しさ(4年7月) 4
(どうしたら、いいの)
会いたい、話したい、触れたいーー、けれど近付けば近付くほど、淋しい、切ない、痛い。
(どうしたら、よかったの)
どちらも同じ重さで想い合う、なんてことが不可能だということは早智子にもわかる。けれどそれでもーー、思ってしまう。
(わたしのため、だけなら)
(ただそれだけしかないのなら)
あのあと、何一つ変わらない態度で接してくる松下に、早智子も同じ様に返そうとした。けれど早智子にそれは出来なかった。出来るはずもなかった。
(要らない、んです)
それでも早智子は、こんな風になってしまったのが松下のせいだとは思わない。全て、自分のわがままの、プライドの、欲のせいだと、わかっていた。
(でも、それでも、)
それでも、あの時素直に、はい、と言っていれば全てがうまくいったとは思えない。それだけは、譲れなかった。
(ーーせんせいが、好きです、)
目の前にいれば、視線も外せない。近付けば、話したい。触れたい。でも、それが自分だけなら、意味がないのだと、早智子は思う。だから、仕方がない、と。
(好き、なんです)
十二時のチャイムが、図書館に鳴り響く。松下と美加が、探るように図書館の中へと視線を向ける。
不意に、松下と視線が絡んだ。向こうからこちらが見えているわけではない。けれど、松下の視線は早智子の視線の先でさまようことを、やめた。
自分の姿が見えるはずはないとわかっている。わかっているのに、早智子の胸はひどく高鳴る。そんな早智子を見透かすかのように、松下は小さく、柔らかく、笑んだ。
(……わたし、は、ここに、います)
美加が待っている、と思いはしたものの、早智子の足は動かない。硝子越し、向こうは見えないはずなのに見つめ合ったままで、早智子は動けなくなっていた。
無声映画の画面の中で、美加が松下に声をかける。松下は慌てたように笑みを消し、美加の言葉に何かを答えた。しばらく逡巡したあとで、美加に紙袋を渡すと、もう一度図書館の中を覗くような様子を見せた後に、立ち去った。
早智子はほっとしていた。ほっとしてしまう自分を少しだけ責めながら、松下の背中を目で追う。
(ここに、います)
気付かれたら困る癖に、そんな風に背中に呼び掛けてしまう。背の高い、痩せぎすな背中は振り返ることなく、すぐに見えなくなってしまったけれど。
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