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大学生と講師のシリーズ
わたしのための優しさ(4年7月) 1

 七月に入ると、月末のテストに向けて学校の中が落ち着かなくなってくる。テスト前に提出しなければならないレポートを出す先生もいるし、ノートのコピーのために校内のコピー機は混み合う。図書館もいつにもまして人が増える。早智子は図書館が賑やかしくなることに多少苛つきを覚える。勿論、声にも表情にも出しはしないけれど。

「早智子はレポート出来てんの?」
「松下のがまだ、あとは下書きは出来てる」
「あー、いいなあ!」

 松下の授業で一年からずっと一緒、卒論のテーマも似通っている美加とは、お互い何となく牽制しあっていたのか、四年になるまでほとんど口をきいたこともなかった。必要に迫られて話し出してみたら、今まで付き合ってきた大学の友人たちよりずっと、楽に付き合える相手になっていた。

「美加は?」
「松下のしかやってない!」
「じゃあ平気よ、アレが一番難題でしょ」
「そりゃそうだけど……」

 図書館はきゃわきゃわと賑やかで、空いている席もない状態だった。美加と早智子は顔を見合わせてひとつ肩をすくめると、美加が諦めたように外を指差した。うん、と頷き、早智子は時計を見る。十二時まであと十三分。それを確かめると、早智子は美加に告げる。

「じゃあ十二時に入口」
「んー、わかった、頑張る」

 それぞれが必要のある書棚へと散らばり、レポート用の資料を集め始める。十三分で集めるためには手際がよいことが必須条件だ。本当なら、松下の研究室にある資料が借りたかったのだが、あの日研究室で中村と会ってから、アルバイト帰りに松下と話をしてから、早智子は何となく研究室に行きづらくなっていた。

(温度差)

 あの日感じた想いの温度差は、早智子をやんわりと、傷付けた。真綿で首を絞める、という言葉の意味を、早智子は身を持って知った気がした。

(中途半端は、辛いですか)

 松下のあの科白が、自分への優しさで口にされたものだというのは、早智子もよくわかっている。松下が、中途半端じゃなくなっても構わない、という覚悟なしに口にするような人間ではないことも。けれど……。

(辛いなら付き合おう、なんて、)
(言われたくないんです、)

 どちらの天秤も同じ重さの想いがないことはわかっている。同じ熱量で相手を想わなければならないとも思わない。けれどせめてあの時、あんな中途半端な科白じゃなく、はっきりと言われていたなら、と早智子は思わずにいられない。



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