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大学生と講師のシリーズ
温度差(4年6月) 7

 感じた温度差に、松下が急に遠くなった気がして、早智子は少しだけ、淋しくなった。

(……、迷わないで、)
(弱く、ならないで、)

 見送る松下の視線を背中に感じる。その強い視線にそう言われているような気がして、早智子は最後まで振り返ることが出来なかった。

(……、中途半端は、)
(つらいです、先生)

 そう言っていたら、どうなっていたのだろう。
 急ぎ足の中で、早智子はぼんやりと考える。

(つらいです、先生)

 何の権利も、なくて。どうしたらいいのか、わからなくて。
 挙動不審になって、泣いて。

(付き合えば変わるの?)
(先生にその気があるわけじゃないのに)

 見開かれた瞳。

(つらいと、言えたら、)
(変わった?)

 けれどそれを松下にぶつける自分は、想像できなかった。
 ぐちゃぐちゃに考えすぎて、松下に会うのも辛いくらいに卑屈になって、泣いてーーそれでも言えなかった言葉が、頭の中を駆け巡る。

(……、あなたが、好きです)

 特別でありたい、と思う気持ちは早智子にもある。触れたい、近付きたい、甘えたい、ほかの誰にも譲りたくない、そして、同じように、想われたい。
 それでも、

(先生、)
(……、先生、)

 ーーそれでも、今は、先生と学生、だから。
 その一言だけを、明確に頭に浮かべる。そうして考えることを無理に放棄し、早智子は駆け出した。
 求める心と裏腹に、松下から離れるために。
 別れた帰り道、電車に乗ってから、早智子はずっと、自分の足の爪ばかり見ていた。
 はげかけたペディキュアの青が少しだけ目にしみて、泣き出しそうになる。
 それをずっとこらえ、ただ、足の爪を見ていた。見続けた。
 ずっと。


20090625
長かった6月がやっと終わります。




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