大学生と講師のシリーズ
揺るがないつめたさ(4年6月) 5
(こんなに残酷に)
(こんなに酷薄に)
(僕は、なれる)
松下にとって、それは知りたい自分の姿ではなかった。
「そうなれば僕は君をこの部屋から追い出すだろうけどね。幾つもルール違反をしてきたでしょう? 中村さん」
もともと、優しい人間でもなければ、思いやりに溢れてもいない。それくらいの自覚はある。
「それからもうひとつ……、」
それでも、こんなにまでの冷たさには、自分でも気付いていなかった。
「女性として、僕が優しくしたいと思うことができるのは、三浦さんだけだよ。君には出来ない」
このところ、早智子が近くにいたから、自分が優しくなった気が、していた。
「……、ひどい、ですね」
追い討ちをかけるように、中村が小さく泣き声で呟く。ぎり、と、胸のどこかで嫌な音がしたような気がした。松下はつよく左手を握り、その痛みに耐える。
「生半可な覚悟で、綺麗事な告白をするからです」
「……きれいごと、なんて……」
「綺麗事でしょう。本気じゃないのだから」
震える声の中村に、ほんのすこしだけ、優しく声をかける。
「……本気じゃないでしょう? 『好きじゃなくてもいい』、なんて」
泣き顔で松下を見る中村に、松下はくちびるだけで笑いかけた。中村は、泣きながら、けれど今度ははっきりと、言い放つ。
「……そうですよ、嘘です……!」
いつもの作ったような明るい表情も、声も、全てをかなぐり捨てて、中村は叫ぶように話し出す。
「でも他に、どうしたらよかったんですか……!? 悠長に好かれる努力なんてしてられない、待ってなんていられない!」
今まで一度も聞いたことのない、目にしたことのない、中村のあまりに生々しい声に、言葉に、表情に、涙に、松下はかける言葉が見つからないままに、ただただ、彼女を見ていた。
「……だって、今……! 今つかまえなかったら、半年後にはあのひとの……っ、三浦先輩のものになっちゃうでしょ!?」
「……!」
思わず息を飲んだ松下を、中村は睨むように強い視線で見た。松下はただ、黙る。口にできる言葉を、松下は持たなかった。
どちらもが言葉を発することなく、しばらく時間が流れた。そして、言葉もないままに、中村が動く。
中村は鞄から取り出したタオルで、そっと涙を拭く。
早智子ほど綺麗には鳴らないかかとの音が、かつりかつりと床を蹴り、松下の前へとまた、近づいた。
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