大学生と講師のシリーズ 揺るがないつめたさ(4年6月) 3 「……君にそれが関係あるとは思えないね」 一連の動作をまっすぐな視線で見つめてくる中村を、松下も見返し、言葉を発する。 「ありますよ」 「なぜ?」 間髪入れずに聞き返した松下に、わずかに彼女は笑んだ。 「わたし、先生が好きですから」 自信ありげな上目遣いと、真っ直ぐな声。 「三浦先輩は、先生と学生だってだけで立ち止まるかもしれないけど、私はそんなに臆病者じゃ、ありませんから」 松下はそれがおかしくて、少しだけ、笑った。くちびるを歪めるだけの、酷薄な笑みで。 「……臆病?」 「私は、先生が好きだって気持ちが、大事です。先生だから駄目だなんて……、本気で好きだとは、思えません」 松下は、くっと小さく、笑った。 中村はまだ、気付かず続ける。 「私は……、先生が好きです。先生が私を好きじゃなくてもいい、一番側に居られたらそれだけでいいんです、」 中村が顔を上げ、松下に近付く。コーヒーカップが、松下のものに重ねられた。 「だから、先生、」 松下はただ黙って、近付いてくる中村を見ている。酷薄に、笑んだまま。 「私を、彼女にしてください」 松下の目の前まで歩いてきた中村が、松下の左手に触れる。確かに魅力的な告白だろう、と松下はひどく冷めた目でそれを見た。 早智子の手とは違う、あたたかい指の感触を、松下は振り払いはしなかった。 「……中村さん」 かわりに、静かに静かに、松下が口を開く。ひどく冷たいその声の響きに、中村の指はわずかに、びくりと震える。 「離れて」 静かで冷たい、けれど明らかな拒絶。 「僕は君に興味がない」 中村は、おずおずと顔を上げ、松下を見た。絡んだ視線に、わずかに一歩、無意識の内に後ずさっていた。 「それでもいいなら、好きにすればいい」 「……え、」 「僕は聖人君子じゃないからね」 中村がまた、一歩、後ずさる。松下は追わない。まだ次の言葉が出ない中村になおも松下は言い募る。 「君が進んでスケープゴートになるっていうなら、喜んで利用させて貰うよ」 松下に触れていた指を、中村がついに引いた。 松下は静かに彼女から視線を外し、ドアまでの道をあけるかのように、本棚にもたれかかった。 中村はそれでも、動かなかった。 「……、わたしは……三浦先輩のかわりですか」 小さく小さく、彼女が声を発する。わずかに震えた声で、それでも部屋から出ていかずに話そうとする彼女に、松下は少しだけ感心する。 (……切り捨てなければ、) [*前へ][次へ#] |