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大学生と講師のシリーズ


 投函してから三日間、早智子は家の電話が鳴る度に、郵便配達がくる度に緊張した。松下が知っている自分の連絡先は、学生名簿に載っている、自宅の電話番号と住所だけだったからだ。

(手紙の意味、通じたのかな)

 四月が待ちきれない、話したいんです、会いたいんです、と、暗に書いたつもりだった。勿論暗に、なので気付かれないで普通の手紙として受け止められても仕方がないのは早智子も理解している。それでも、少し、期待してしまうのも事実だった。

(先生、)
(先生、だったら、きっと)

 そんな風に少しだけ、期待して待ってしまう。そして、三日間が過ぎ、四日目の夕刻に、それは、来た。
 何の飾り気もない真っ白い業務用みたいな封筒に書かれた自分の名前。
 その文字は、お世辞にもきれいとは言えない文字だった。右肩上がりで読みにくい、けれど早智子には見慣れた、好ましい文字。
 裏に書かれた住所や差出人の名前を確認するまでもなく、それは松下祥から送られたものだと早智子にはわかった。
 速達で届けられたそれを、早智子はペーパーナイフを取りに二階にある自室に取りに行く時間も惜しく感じられ、受け取ったまま玄関で、出来るだけ丁寧に上部を破り取った。
 中から出て来たのは400字詰めの原稿用紙だった。
 一瞬面食らったものの、開いてみるとマス目を無視して縦書きに書かれた手紙のようだった。


 前略、
 手紙をありがとう、僕は元気です。
 あれから、きみにあげた三冊を、僕も読み返していました。
 きみと話したいことが僕にもあります。
 この三冊について、きみのこれから書く論文について、
 それから、きみのこれからの進路についても。
 きみのことなので、僕が踏み込む必要がないほど、
 きっと準備もされているでしょうが、
 話してみたい、と、思います。

 さて、明日からしばらく学会のため留守にします。
 僕の身柄が空いている日時を三つほど、書いておきます。
 きみの予定と照らし合わせて、また返事を下さい。
 空いている時間が夕方からばかりですみません。
 きみさえ良ければ、飲みにでも行きましょう。
 酒につよいと風の噂に聞いています。
 
 こんな紙に、走り書きの手紙で申し訳ない。
 ではきみも、お元気で。
             草々、

三浦早智子様
             松下祥


 封筒の中を探ると、スケジュール帳のコピーなのか、ごちゃごちゃと色々なことが書かれた小さなカレンダーに、目立つ赤丸が三つ、あった。その赤丸の中に、原紙に書かれていたらしい予定の黒字の上から、赤字でそれぞれ時間らしきものが書いてあった。
 そのぶっきらぼうな空き時間の示し方に早智子は少しだけ、笑った。

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