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大学生と講師のシリーズ
理性と人肌(4年8月) 4

「もう、好きなだけ笑ったらいいですよ……」
「す、すみませんっ、でも、」
「とまらないですか、きみ、そんなに笑い上戸でもないでしょう?」

 また松下は呆れたような声を出す。
 繋いだ指を離すことなく、二人は駐車場についていた。

(ふたり、の、時間)

 先刻の印刷中でも、研究室でも、時折乗せて貰う車の中でも、二人きりになるチャンスは何度でもある。会話もない二人きりの空間で、お互いに好きなことをしているのは、確かに心地いいことでもある。

(でも、人の肌、って、)
(ほかのひとの肌を、)
(恋しがるように、できてる)

 もっと構って欲しい、と、毎日積極的に思うわけではないけれど、構われ、触れられることは、確かな幸せと、安堵と、よろこびをもたらすことも、確かだ。

(先生、あなたが、好きなんです)

 恋愛は罪ではない。先生と生徒が隠れて付き合うことも難しいことではないし、悪いことじゃないから付き合ってしまえばいいのに、と、言う人もいるのはわかっている。愛は尊くて、大切なんだから、と。

(でも)
(わたしには、できない)

 今だって、好きで、好きすぎて、松下に甘えている、近付いている、我慢がきかないーー、その自覚がある早智子には、付き合っていることを隠し通せる自信がない。
 調節できる、とどまれるうちは、そんなの恋愛じゃないよ、本気じゃないのよ、と、罵られた記憶はまだ、新しい。

「……早智子さん?」

 ぼんやり、考えてばかりいた早智子を、松下が不思議そうに見ていた。声をかけられて松下を見上げると、松下は少しだけ、困ったような顔をしていた。

「早智子さん、」
「はい」
「考えすぎないで」
「……え、」

 考えていることを見透かされているのかもしれない、と、早智子は顔に熱が集まってくるのがわかる。
 松下はぼうっと自分を見上げている早智子を、繋いだ手で引き寄せるようにした。
 強くはない、痛くもない、けれど強引な力で引き寄せられた早智子が不意によろけると、次の瞬間には、松下の胸にぶつかるようにして抱きとめられていた。

「……え、せんせ、……」

 急すぎる展開に早智子が抵抗も反論も、かといって抱きしめあおうとすることもできずにいると、松下がそっと、早智子から離れた。


「……、ごめん」



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