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大学生と講師のシリーズ
理性と人肌(4年8月) 1

 8月、9月のほぼ2か月という、長い長い夏休みのド真ん中に、松下の引率する研修旅行が企画されていた。
 文学に関係があるような場所を巡る、というお題目も、旅行後のレポートも確かにあるのだが、結局のところ、集団ではあるけれど、学校から援助が出る分安い旅行、以外のなにものでもない。四年間の間に何回か参加すれば、2単位分が稼げる。
 松下の研修旅行は、1泊2日。単位では0、3単位分に相当する。1年から4年までがばらばらと混ざった集団は、それでもとても、少なかった。たった、13人。
 微妙に不吉で、非常に少ないこの人数の理由は、事前の下調べとしおりづくりのオリエンテーション、プラス、旅行後のレポートがある松下の旅行と、旅行後のレポートすらない川上の旅行の日程が重なったためだ。向こうは2泊3日、単位は0、5単位分。川上の方に行きたい気持ちは、確かによくわかる。

「お疲れ様です、三浦さん」

 コピー機の前で、出てくるプリントとにらめっこしている早智子に、松下の声が届いた。早智子は振り返って少し、微笑む。

「もうすぐ、終わりですから」
「ありがとう」
「いいえ」

 夏休み最初のオリエンテーションが終わり、それからの三週間で、研修旅行で訪ねる先について各自が調べ、まとめ、提出したものを、今は人数分印刷しているところだった。
 提出期日は本日16時まで。早智子は既に3日前には出来上がっていた癖に、わざわざ今日の16時を待って提出に来たのだった。それを受け取って、印刷に行きましょうか、と、当然のように言う松下に、早智子はただ、頷き、従いーー、今に至る。

「自分でやるつもりだったのに、逆に任せきりにしてしまって、すみません」
「気にしないで下さい、私、好きなんです、こういうの」
「助かりました」

 コピー機が止まり、全ての印刷が終わったことを告げた。早智子は刷り上がったプリントを揃え、先に印刷され、ページ別に互い違いに積み上げられた山の上に、そっと置いた。

「だいぶ暗くなってますね」

 松下が静かにそう口にする。時計を見ると、7時をまわったところだった。早智子ははい、とだけ答え、窓の外に視線を投げた。



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