大学生と講師のシリーズ
二度目の春 3
「やっぱり、私の携帯からかけます」
そう言うと、素早い操作で早智子へと電話をかけはじめた。
「多分、知らない番号の電話、出ないですから」
「ああ……」
なるほど、と松下が納得した時には、もう彼女からもしもーし! と元気な声が発されていた。
「もしもーし、サチー?」
電話の向こうから、ぼそぼそとした声がなんとなく聞き取れる。松下はそっと耳をそばだてた。
「うん、今頼みに来たんだけど、なんで来れないのって、聞いてるから、……うん、さっきの電話、そう。……、あ、……聞いてみる、ちょっと待って」
携帯電話を耳から離すと、彼女は松下に向けて問いかけた。
「先生、さっきの番号にかけたら、ここに電話つながるんですかって、サチが……、じゃない、三浦さんが聞いてます」
「多分、かかります」
「わかりました」
かかるって、と彼女は電話の向こうに簡潔に告げると、じゃね、とさっさと電話を切った。
「じゃあ、先生、電話かかってくるので、よろしくお願いします」
「はい、わざわざありがとう」
失礼します、と口々に言って、彼女たちは去っていく。松下は淹れかけだったコーヒーをとりあえずカップにうつすと、ごくりと一口、飲み込んだ。
ヒステリックに電話が鳴り響く。松下は静かに受話器を取り上げた。
「はい、常磐女子大学、松下です」
すみません、三浦、早智子です、
そう、か細い声で、早智子は名乗った。電話ごしに声を聞くのは、初めてのことだった。
「来られないと聞きましたが」
はい、と、早智子は短く答える。松下はそのまま続きを待った。早智子はまた、話し出す。
あの、今、病院なんですけど、
「病院?」
はい、さっき、救急車で、
「……救急車……?」
駅に向かう途中、原付で巻き込みにあって、救急車で運ばれました。意識もあるし、怪我もほとんどないんで、そっち行こうかと思ってたんですけど、検査はしろって言われてしまって……、
松下は呆然とその報告を聞いた。自分の事故の直後、まだ病院で検査もしていない状態で、学校に行こうかと思う早智子へ投げる言葉が見つからない。
(馬鹿だ……)
松下の中で、一瞬浮かんだ怒りめいた気持ちよりも、最終的には呆れた気持ちが勝った。ひとつ嘆息すると、何だか笑えてきた。
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