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大学生と講師のシリーズ
二度目の春 2

 食事を、いつもとかわりばえのしないカレーうどんで済ませ、研究室でコーヒーを淹れていると、そのドアが小さくノックされた。

「どうぞ」

 早智子のノックの仕方ではない。松下が応えると、躊躇いがちに、ともすれば嫌そうに、ドアは開いた。

「すみません……」

 顔を出したのは、時々、早智子と一緒にいる学生だった。一年の時に、授業から追い出したことのある相手だ。意外な人物であることには違いない。

「あの、急に、すみません」

 ドアを閉めて内側に入ることも躊躇う仕草で、彼女は話し出した。
 彼女の後ろには、あと三人くらいの気配がある。一人では来にくかったのだろうとは思うが、松下はあまり、気持ちはよくなかった。

「用件は、なんですか」

 静かに訊ねると、彼女は少しまた躊躇うようにした。それでも、なんとか話し出す。

「あの、先生の、次の時間の演習なんですけどー」
「はい」
「一回目に出席しないと、履修は認めないって、概要にあったじゃないですかぁ」
「書きましたね」

 不必要に伸ばす語尾に多少苛つきを感じながらも、あっさりとそれを認めると、彼女は後ろを振り返り、こそこそと、後ろの仲間たちに話をした。
 すると結局、他の学生が入れ替わって話し出した。

「あの、先生」
「……あなたがたの用件は同じこと?」
「はい、すみません、正直に言うと、じゃんけんで話す人を決めたんですけど」
「…………それで、何」
「あの、サチが……」

 サチ、という言葉に、松下は少しだけ、動揺した。

「えと、すみません、去年先生の授業をとってた、三浦早智子、わかりますか?」
「はい」
「その、三浦さんが、今日来られないんだけど、先生の授業とりたいって言ってて、それで、頼んでくれないかって言われて」
「……来られない?」
「そうです、それで」
「なぜ?」

 話を断ち切った松下の問いかけに、面食らったのか、彼女はふっと黙り込んだ。

「なぜ、来られないのか、聞いていないんですか」
「……すみません」
「今、直接連絡がとれるひとは?」
「あ、はい、携帯にかけてみます」
「そこの電話でかけてください」

 松下の研究室にひかれている電話を指差すと、学生のひとりが、携帯電話を片手にボタンを丁寧に押した。
 彼女の耳に当てられた受話器から漏れ聞こえる呼び出し音、それから留守番電話の機械的な音声。彼女は、留守番電話を吹き込むことなく、受話器を置いた。


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あきゅろす。
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