大学生と講師のシリーズ
白日に(4年11月) 4
真山との待ち合わせの場所に、早智子はかなり早く着いていた。美加が松下の研究室に行くと言うのを約束があるからと振り切って、学校を出てきてしまったせいだ。けれど、コーヒーを飲む気にもなれなかったし、一人で街の中を歩く気にもなれなくて、待ち合わせの目印の木によりかかるようにして立った。
何もしたくないのに、何かをしないといられない。どこにもいきたくないけれど、どこかに行きたい。誰かと一緒にいても何も埋まらないのに、一人ではいられない。
どうしたらいいのかはいまだにわからないまま。
甘えたまま。
狡いまま。
(考えちゃだめだ……)
先回りして、考えることを放棄する。放棄しても、ほかに気を紛らわせることもできない。ぽかんと空いてしまった頭の中には、未だに何も詰まっていない。
そして、電話が鳴る。
ショートパンツのポケットの中で、震える。
真山にしては早すぎる。早智子は携帯を取り出した。
(――美加)
最近、きちんと話をしていない。心配されているのがわかるから、会えない。何があったのと聞かれることが怖くて、話もできない。知らないふり気付かないふりで騙し騙しごまかして、逃げて。
美加は何も言わない。突き付けない。彼女が本当は、早智子の演技に騙されていないことを、早智子自身も感じ取ってはいた。
それでも、逃げた。
逃げ続けた。
(だって、まだ)
(せめて、美加にくらい……)
躊躇しているうちに、呼び出しのバイブが途切れた。ほっと息を吐き出した早智子の隙をつくタイミングで、また、電話が震え出した。
「……はい」
早智子は諦めて、電話を取った。
今どこにいるの。ひとりなの。
そう問いかけてくる声は柔らかさを保っているのに、ぴり、と、妙な痛みを感じた。美加は怒っている。それをひた隠しにしようとしている。それが、伝わる。
「……先生に、きいたの?」
だから、先に、そう言った。問いただされたくなくて。
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