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大学生と講師のシリーズ
エスケイプ(4年11月) 1

 授業の終わりを告げるチャイムに、早智子はほっと息をつく。それほど大きな吐息でもなかったはずなのに、尾崎の視線が早智子をとらえる。気まずい思いで小さく首を傾げた早智子を苦笑交じりに見やった尾崎が、さらりと告げた。

「じゃあ、三浦さんも脱力しちゃったみたいなんで、今日はこれで」

 その声に、教室がざわと笑う気配がした。前から二番目の席に座っている早智子には、後ろに座っている学生たちの顔は見えていなかった。じわりと耳が赤くなるのがわかる。隣の美加が訝しげな眼を向けたことに、早智子は、気付かない振りをした。
 ありがとうございました、と、きちんとした儀式――起立とか、お辞儀とか――はないが、そこにいる学生たちが柔らかに礼を述べる。まるで揃わないけれど、その分、本当に感謝している感があった。

「なんか疲れてんの?」

 美加が鞄にノートをしまいながら問いかける。

「えー?」

 よくわからない、と言いたげな疑問符に、うふふ、と付け足して、早智子は答えを避ける。美加の顔を見られないまま。美加のため息を黙殺しながら。

「さっちゃん」

 斜め後ろから早智子を呼ぶ声に、美加と早智子は同時に振り返った。朗らかで軽い声で、相手はお構いなしに続ける。

「さっちゃん今日カラオケ行かない? 半額券貰ったから、みんなでこの後行こうって言ってたの」

 それは、先週一緒にカラオケに行った同級生だった。四人以上で30%引きなんだよ、一緒に行かない? そんな誘い文句で、軽く誘われた。いいよ、と答えた早智子を、信じられないものを見る目で美加が見ていたことを早智子は覚えている。

「あーごめん、今日は行けないや」

 荷物を片付けながら、早智子はにこやかに答える。美加の視線が少しだけ痛い。

「えー、そうなんだー」
「うん。バイトなの、ごめんね」
「あー。じゃあしょうがないねー。じゃあねー」
「うん、バイバイ」

 ひらひらと手を振って、早智子は彼女たちを見送る。



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