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大学生と講師のシリーズ


「彼女は、途中でお帰りになりましたよ」
「……みたいですね、僕、また、頭の中味、どこかにいってたみたいだから、怒らせたんでしょう」
「当たりです」
「……三浦さん何だか楽しそうだね」
「そうですか?」

 確かに早智子は、楽しかった。弱りきった松下を見ることも、それから、彼女よりも松下のことをよく知っていると思えることも。今ここにこうしていられるのが、彼女のおかげだとしても、それに嫉妬を感じていないわけではなくても、今は、ただ、楽しかった。

「先生が困った顔なんて、レアですから、ね」
「三浦さんのバイト先だったから、ですよ」
「浮気した彼氏じゃないんですから、そんなに思いつめることはないですよ、先生」
「ああ……、まあ、そうなんだけど」

 カップに残ったカフェモカを一息に飲み干し、早智子は席を立つ。

「じゃあ、先生、」
「え?」
「私、終電の時間なので、帰ります」

 呆気にとられたままの松下に向かって、笑ってお辞儀をすると、早智子はすいとテーブルから離れた。
 既に着替え終えている早智子は、店員として振る舞うことはできない。カウンター内の片山にも、ご馳走さま、と、お客さん然とした挨拶をして、店を出た。
 片山も、ありがとうございました、と当たり前のように店員として見送る。
 後ろで自動ドアの閉まる音がするのを、振り返ることなく早智子は駅へと歩き出す。終電まではまだ三十分ほど間がある。駅までは、早智子の足で徒歩十二分。余裕はあるが、あまりうかうかとしていられない時間でもあった。

 背中で、また自動ドアが開くのがわかった。片山の、ありがとうございました、という声がそのドアから漏れ聞こえ、そして、また、閉まる音がした。
 早智子は振り返ることなく、進む。
 後ろを追ってくるのが松下であることを胸の内で期待をしながら、けれど、振り返ることはしなかった。
 落胆したくない。
 自分からすすんで落胆する気には、早智子はなれない。

(先生、)
(彼女を追うの、)
(それとも、)
(わたし?)

 歩みを緩めることはない早智子の耳に、松下の自分を呼ぶ声が、届いた。



20090403
んー意味もなく長い…

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