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大学生と講師のシリーズ
昼前の二人(4年9月) 2

「……携帯電話とか財布とか、嘘ってこと?」
「どうかなあ、そこまで大胆な嘘をつくかはわかんないけど――」
「けど?」

 美加は先を急かす。早智子はゆっくりと続きを口にした。

「初めから遅れてくる気だったろうし、グループの子たちとは連絡とれないって筋書きだったんじゃない?」
「……最悪」

 美加が吐き捨てるように言い放つ。早智子は苦笑して、美加の肩をぽんと叩く。

「あくまで推測よ」
「でも最悪」
「だから最悪の場合を推測してるんだってば」

 バス停は間近だ。早智子は美加をなだめるように、もう一度肩をたたいた。

「だからもしかしたら先生はもう、一人になってるかもしれない。でも、確かめる勇気が私にはないの」
「何で? 確かめて、一緒にいるならケンカしようよ! 怒れって」
「ケンカになんてならないわよ」
「だから、何で!」

 肩を叩いた効果はほとんどないらしい。美加の苛立ちは早智子にもよく伝わってきた。

「だって責められないじゃない」
「先生だからとか言わないでよ」
「言うつもりだったけど?」

 いっそその苛立ちは、早智子を気持ち良く責め立てた。呆れたように美加が深くため息をつく。早智子はくすくすと笑った。

「何笑ってんのよっ」
「ごめ……、ごめんね、あんまり真剣に怒るから」

 美加の手が少し強めに早智子の頭をはたく。そのあと、美加もわずかに苦笑した。

「あんたは甘いのよ」

 美加のその声に、早智子は僅かに笑んだだけで、返事をしなかった。

 バス停でバスを待ちながら、二人はガイドブックを広げて、昼食の店を相談する。コース的に三か所くらいに絞ってあった中から、最終的には美加が決めた。次の目的地の一番近くの店だ。
 ひとしきり旅行についての相談をし直した後で、早智子はぽつりと口にする。

「――でもね、美加」

 バスがバス停に入る直前のことだ。今度は、美加も静かに聞いていた。

「中村さんのやり口を許す気はないの」

 美加が右手をあげる。バスがとまって、ドアが開いた。二人は黙って乗り込み、空いていた席に並んで座った。
 バスの中は期待していたほど涼しくはない。窓から入る眩しい光で、そこはかえって暑いほどだった。

「あっついね」



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