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大学生と講師のシリーズ


 すい、と松下の視線が外れ、松下はこともなげに、付け足した。

「いい論文、書いてくれそうだから」

 早智子はひとつため息をそっとついた。

(そりゃ、そうだ)

 この研究オタクがそんな科白をさらっと言っちゃうこと自体、恋愛関連じゃないと明言しているようなものだ。早智子にもそれはよくわかっていた。

「じゃあ、来年はいっそう、よろしくお願いします、松下先生」
「こちらこそ」

 この鈍感め、と思いながらも、早智子は笑った。
 皿の中のガトーショコラはもうない。松下の甘いもの好きは本当らしかった。早智子は少し安堵し、コーヒーを飲み干すと、席を立った。

「じゃあ先生、差し入れに寄っただけなので、帰ります」
「うん、構わなくてごめんね」
「期待して、ないですから」
「手厳しいなぁ」

 早智子はくすと笑うと、本棚から二冊本を取り出した。

「先生、これ、借りていきます」
「うん」
「じゃあ、また」
「うん」

 松下の目は、既にパソコンの画面に向いている。休憩ついでに、今まで書いた分を見直しているのだろう。邪魔をしたような気がして、少し、気が咎めた。
 このままもう話しかけずに部屋を出よう、と、早智子は静かにドアを開く。足を一歩踏み出したのと同時に、後ろでドサドサと不吉な音がした。

「あっ」

 松下の悲鳴に、早智子は慌てて振り返る。

「松下先生!?」
「あ、うん、大丈夫」

 確かに松下は平気そうだった。足元は本で埋まっていたけれど。そこから松下は立ち上がってこっちに来た。

「ごめん、これを渡そうと思ったら、本に埋まってたんで」
「え?」

 差し出されたそれを反射的に早智子は受け取る。綺麗に包装され、リボンもかけられているそれは、どうやら何冊かの文庫本のようだった。

「あの、これ……」
「うん、バレンタインだからね」
「え?」
「流行ってるんでしょ、逆バレンタイン」
「ええ!?」

 早智子は目の前の松下の意地の悪そうな微笑と、手の中の包みを見比べた。まだ頭が混乱している。

「本屋でそう言われて買ったんだ」
「あ……え、ありがとう、ございます」
「どう致しまして、卒論の足しになるといいけどね」
「はい」

 早智子はやっと微笑みを返すことができた。松下は満足したのか、小さく頷くと、また少し、意地悪そうに微笑んだ。

「ケーキ、ごちそうさま。美味しかったよ。ハートで可愛かったしね」
「……義理、ですよ?」
「うん、僕もそう」

 松下がさらりとそう答えたことに、早智子は少し、落胆した。自分で線をひいた癖に。少し俯きながら、帰る、と告げようとした、けれどーー、

「そうしておくのが、今は一番、都合がいいからね。早智子さん」

 松下のその科白が耳に飛び込み、早智子は素早い動きで松下の顔を見上げていた。
 曖昧にその視線をかわした松下は、すっと早智子から離れ、床を片付け始めた。早智子は静かに静かに、部屋を出た。


happy happy valentine day!!



20090214

バレンタインなのでバレンタイン小説を突発的に書いてみました。
長い…。
間に合って良かったです。

お題は、SPICE様からお借りしました。





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あきゅろす。
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