大学生と講師のシリーズ
ガールズトーク(4年7月) 4
(わたしだってあなたとおなじ)
(とどまれてなんて、いないのよ)
早智子は静かにそう考える。けれど口に出すつもりはなかった。
遠くから誰かの笑い声がきこえる。テストが終わって、愉快な気分になっているのだろうか、ひどく甲高い笑い声だった。
「……三浦先輩」
ぼんやり関係のないことを考えていると、笑い声の方をみやるかのように視線をそらした中村が、ぽつりと告げた。
「――私が誰かにバラしたら……」
呟くように小さな、けれど聞き逃させようとはしない、伝えるための声だった。
早智子は中村から視線をそらさない。中村はゆっくりと首を動かし、再び早智子を見た。
「どう、します?」
挑戦的な、声だった。
中村は唇だけ歪めて笑っていた。先刻までの卑屈な笑みでなく、何かを企むような笑い方で。
早智子は首を傾げて、微笑する。
「どうしようもない、でしょうね」
そして、そう返した。
「どうしようもない……?」
中村が聞き返す。早智子は微笑したまま答えた。
「だって私には何もできないでしょう」
「……開き直るの」
「そうよ。じゃあどうして欲しいの?」
「どうして欲しい、なんて……」
中村はぎりと強く手を握りしめた。早智子はそれを見逃さなかった。
「――別れたりは、しない。諦めたりしない。その他に、あなたが望むことなんてないんでしょ?」
ただ、淡々と、早智子は言った。
中村が一度瞳を伏せる。早智子はただその瞳が自分を捉えるのを待った。
ただ、待った。
(あなたは、目を、そらさない)
早智子は中村のその所作は好きだった。目をそらして話さない、俯くことを潔しとしない、彼女の真剣さを、真面目さを。
(だから、)
(話すんだ)
(ごまかしたく、ないから)
(負けたくないから)
中村が何かを覚悟したように、ゆっくりと瞳を早智子に向ける。彼女が口を開くより先に、早智子はつよく言葉を投げつける。
「――でも、許さない」
小さく中村の肩が震えた。
「何もできないからって、許す訳じゃない」
まっすぐ、
「――それだけは、」
ただまっすぐに、つよく、
「忘れないで」
早智子は声を投げつけた。
中村は視線をそらしはしなかった。言葉もなくくちびるがかたく引き結ばれ、次の言葉は生まれなかった。
それでもどちらも、動けずに。
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