大学生と講師のシリーズ
ガールズトーク(4年7月) 3
(一方的に責めたいの、)
(それとも、)
(諦めさせて欲しいの、)
(どっち?)
未だ真意をはかりかねている早智子に、余韻を残してチャイムが鳴り終わる音が届く。迷い続ける猶予はないのだ、と、告げるように。
中村は口を開かない。
早智子は覚悟を決めて話し出した。
「……関係ないとは思わない。でも、干渉する権利があなたにあるとも思わない」
「何それ」
嘲笑するような響きで、中村が即座に反論する。早智子は壁に寄りかかった状態から一歩前に踏み出すと、すっと背筋にちからをこめた。
黙って聞き続ければ、早くに解放されるかも知れないと、頭の片隅では思っていた。けれど。
(まっすぐ、な、背中で、)
(立ち向かわなきゃ、)
中村が少しだけ、肩を揺らした。
(正しい、と、認めることになるから、)
自分の中でどんなに反論が出来ても、どんなに好きだと、本気だとわかっていても、何もせずにいれば中村には伝わらないまま、彼女の言い分をすべて認めることになる。
「あなたの言葉で、私は変わらない」
「え?」
それだけは、できない。
「私は、……あのひとの言葉にしか従わない」
あのひと、と、早智子は口にする。
人通りが少ないとは言え、先生、と口にするのがはばかられたからだ。
「あなたよりも、あのひとの方が、大切だから」
まっすぐに。
まっすぐ前を向いて告げた。
大きくはなかったが、はっきりとした声だった。中村が身じろぎしたのが早智子には伝わった。
(あなたよりも、あのひとが、)
(たいせつ)
それは、早智子にとって口に出さなくてもわかってはいたことだ。けれど口に出したら、やけにそれは体の中でつよく響いた。
なんだか、怖くなるほどに。
「……排他主義」
びしりと中村が言い捨てる。早智子はくすりと笑った。
「そう思うならそれでもいいわ」
中村がかっとしたのがわかる。
「やな女!」
「お互い様よ」
吐き捨てられた中村の科白に、けれど早智子は怯まなかった。声を荒らげもせずに、笑ったままするりと言葉を返す。
「――あなたに、本気だなんて認めて貰わなくても構わない。あのひとにさえ伝わっていれば、それで」
早智子は静かにそう告げた。中村も何も言わなかった。絡み合った視線のうちに、身を竦めたくなるような、つめたい電気が流れているような気がした。
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