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大学生と講師のシリーズ
ガールズトーク(4年7月) 2

 通りすがる女子学生たちが、しずかに、けれど興味深げに視線を投げてくる。早智子は黙ったままでいた。それでも、中村は続ける。

「好きな人と離れることより、他人の目の方が、怖かった癖に、」

 一度、中村が目を伏せる。早智子はただ、待った。
 何も、言うべき言葉は見つからなかった。言葉を尽くして何かを説明しようとも、わかってもらおうとも思いはしなかった。
 中村がもう一度視線をまっすぐに早智子に向けた。つよいつよい、敵意の瞳。
 その敵意の強さに、けれど早智子はたじろぐことはしなかった。少なくとも、表面上は。

「今だって、怖い癖にっ……!」

 それはひどく取り乱した声だった。

「そん、なの……」

 叫ぶ訳じゃない。けれど尋常じゃない響きで、中村の声が響いた。

「そんなの、本当の、好きなんかじゃ、ない……っ」

 中村から発される敵意に怯えた気持ちになりながら、けれど奥底ではひどくさめた気持ちで中村を見ている自分を早智子は自覚していた。

「……調節して、我慢して、」

 言葉を発せずにいるうちに、中村はまた話し出していた。今度はひどく、静かに。

「そんなことができるうちは本気でも何でもないって、」

 静かなのに、顔も笑っているのに、なぜか、悲鳴のようだった。

「そう、思いませんか、先輩」

 問いかけに答える必要があるのか、早智子はしばし逡巡した。

(一方的に責めたいの、)
(それとも、)
(諦めさせて欲しいの、)
(どっち?)

 頭に浮かんだ中村への問いかけを、早智子は口にはしなかった。けれど中村もそれ以上語る言葉を持たないようだった。早智子はやっと口を開く。静かに。

「……あなたに、どう言われても、構わないわ」

 それは早智子が思っていたよりもなお冷たい声音で発せられた。中村はひどく卑屈に笑った。

「ひどい言い種ですね」

 どちらが?、と問いかけようとして、けれど早智子は思いとどまる。

「関係ないとか、言わないでくださいよ?」

 その問いかけに早智子はやっと口を開く。

「ないとは思ってないわ」

 静かに、つめたく。
 授業のはじまりを告げるチャイムが鳴り響く。階段を通る人影は一段落し、そこにはもう、二人しかいなかった。
 互いの声は、チャイムの間うまく聞こえなかった。どちらも黙ったまま、ただ互いを見つめていた。睨み合っていた、とも言えるかもしれない。



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