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大学生と講師のシリーズ


 すい、と真っ直ぐに、彼女の右手が挙がる。さっきの松下の言葉を重く聞いたのだろう、さっさと発言しよう、という態度が気持ちがよかった。

「三浦、早智子です」

 彼女の真っ直ぐ自分に向けた声を、松下は初めて聞いた。それは随分凛とした、張り詰めた響きで、松下は一瞬、身震いを感じるほどだった。女性にしては低く、けれど心地よい声。松下は何となく、ジャズの女性シンガーみたいだな、と思った。

(色気と、堅さと)
(生真面目さと)

「松下先生」
「はい」
「他に、話しておいた方がいいことはありますか」
「では、もう一度。今から、一分間スピーチをして貰います。意外と長いですから、覚悟して話して」

 彼女は動じなかったが、他の七人は、少し動揺したように見えた。
 腕時計についているストップウォッチ機能を用意し、スタートの合図を出す。

 話し出した彼女の声に耳を傾けながら、その、凛とした立ち姿を見つめ、松下は密かに、思う。

(あの凛とした、彼女の背筋と首筋と)
(それから、声)
(つめたい、瞳)

 彼女は、淀みなく喋る。一分間、喋り続けていられる学生はそう多くはない。松下は感心しながらも、表情には出さず、時計と彼女を見比べていた。 

(甘えさせて)
(よりかからせてみたい)

(僕に)

 そこまで考えてから、はっと松下は気づき、少し動揺した。
 それは、自分でも気付かない内から先に言葉になってしまった、何か。

(…僕に、か…)

 それでも、ストップウォッチが一分を指したのを見逃すことなく、終了の合図を出す。松下が彼女を真っ直ぐに見ると、彼女は話をすっと終わらせ、一礼した。
 彼女はその後、また真っ直ぐに松下を見た。絡み合う視線に、松下は柄にもなく軽い動悸を感じていた。
 ふ、と、
 彼女は、微笑んだ。

「松下先生、よろしくお願いします」

 そして、そう、真っ直ぐ松下を見て、言った。
 それはなんだか宣戦布告のような、嵐の前のような、静かで淡々とした響きを持って松下に届けられた。

 そして、松下は、微笑した。

「こちらこそ、三浦さん」



20090226

バレンタイン小説の二人の、first contact話です。
なんとなく思いついてしまったので多分、続きます(笑)




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あきゅろす。
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