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大学生と講師のシリーズ
諸刃の剣でも(4年7月) 2

「例外はありません」
「好きな人でも?」
「関係ありません」
「意外と、意気地がないんですね」

 松下は返す言葉が見つからなかった。傷ついたからでも、図星だったからでも何でもない。
 ただ、呆れたからだ。

「付き合う意気地もないんですよね」

 まだ言い募る彼女の声は楽しげに弾む。

「三浦先輩も、先生も、意気地なしです。それに、頭が良すぎて、恋愛まで頭でできちゃうんですよね」

 松下はただ静かにためいきをついた。

「……そんなの本気でも何でもない、そう思いません?」

 いらつきはしない。頭にもこない。挑発にのるほど安くは出来ていない。それでも松下は、中村の方を向いて静かに口を開く。

「それで……何が聞きたいんです? 僕にどんな言葉を期待しているの?」

 意識して、冷たくない声を出したはずだっだが、実際に喉を飛び出したのは冷ややかな響きを抱いた言葉でしかなかった。

「……期待? 私が?」

 臆することなく、中村が問い返す。けれど松下は返事をせず、ただ彼女の顔を見ていた。
 どちらも黙っていた。中村はまだ、笑っている。松下はただ、待っていた。

「……じゃあ、何を期待させてくれるんです?」

 それを口にした途端に、中村の顔から笑顔が消えていた。

「先生は私を好きにはなりませんよね」

 仮面をはがしたかのように、笑顔はかけらも残らなかった。

「三浦先輩と付き合っているからと、私を諦めさせてもくれないでしょう?」

 鋭い、まっすぐな瞳。
 松下を正面からとらえて、逃げない瞳。

(これが素なんだろう)

 松下はそれをまっすぐに見返す。こんな風にまっすぐ、自分を見ることが出来る相手は、嫌いではなかった。

「先生……、私は……このままじゃ、」

 口にしているうちに、中村の声はかすかに震える。

「前にも後ろにも、行けない」

 言い終えたと同時にもう、彼女は泣き出していた。

「たすけて、ください……あなたが好きです」

 吐息に混ざった声に、それでも黙ったまま、松下は彼女を見ていた。化粧が崩れ、表情をつくれなくなった彼女は確かに哀れではあったが、松下は初めて彼女に好感を抱いた。

「先生が、好きです」

 もう一度繰り返された科白に、やっと松下は動いた。
 泣いている中村に、松下はタオルを渡すために立ち上がった。



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