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大学生と講師のシリーズ
諸刃の剣でも(4年7月) 1

 こんこんこん、と、ドアが三度、リズム良く叩かれる。

(……早智子さん、)

 意識の端でそれをとらえていながらも、松下の声も体も、目に見える反応はしなかった。
 ぱちぱちと継続して叩かれるキーボードの音に、躊躇いのない勢いでドアが開かれる気配がまざる。ばたん、と閉まったドアの音で、ふつりと松下の集中が途切れた。

(――じゃ、ない)

 ノックはよく似ていた。だからこそ松下は、無理に反応しなかった。ノックが早智子であれば、反応がなくても静かに入室し、勝手に寛いで行くのが常だったからだ。

(甘えてるな……)

 その事実に苦笑しながら、松下はキーボードを叩く手を止める。

「あ、気付かれちゃった」

 悪びれない響きで告げられたそれで、松下は部屋の中にいるのが誰かを知る。

「中村さん」

 松下は意識して、冷たくない声を出した。

(ノック三回、)
(わざとだろうな……)

 彼女はおそらく、早智子の真似をした。ただ、ノック三回が珍しいわけではない。絶対にわざとだと言い切れる根拠はどこにもなかった。

「レポートですか?」

 静かに問いかけた松下に、中村はにっこりと笑う。ひどく華やかにかたちづくられたその笑顔に、松下は何となくため息をつきたい気分になる。

「今日締め切りでしたよね。お願いします」

 胸に抱かれたレポートを中村が差し出す。松下は緩慢な動作でそれを受け取った。

「あと、借りた本、お返しします」
「ああ……、はい、適当に戻しておいて」
「え? 平気なんですかー?」
「休みに入ったら、綺麗に整頓し直しますよ。今は、誰が何を持っているかもよくわからない状態です」

 研究室の本は請われれば誰にでも貸し出している。早智子が出入りするようになってから、研究室に来る学生の人数も自然と増えていた。出入りがあるうちはいくら片付けても間に合わない。

「だから、夏休み中に何か借りるつもりだったら、ちゃんと名前と本の題名をホワイトボードに書いていってください。明日から、ここは入室禁止にしますから」
「入室禁止?」
「レポートの採点をしますから、誰も入室させません。締め切りに遅れたものを受け取らないためにも」
「へえ……そうなんですか」

 松下は中村から視線をはずし、レポート提出者の名簿から中村の名前を探し、レ点を入れた。

「……三浦先輩も?」

 探るような口調で中村が問う。
 舌打ちしたい気持ちを何とか押さえ込み、松下は中村を見ないまま答えた。



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あきゅろす。
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