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大学生と講師のシリーズ
底に残ったコーヒーの味(4年7月) 1

 早智子の家の住所に一番近い高速道路のインターチェンジを降りると、松下は早智子を起こす覚悟を決めた。
 大体このあたり、とナビの告げる場所近くにコンビニを見かける。自分が灯りに群がる虫のように感じるほど、コンビニは真っ白く光っていた。松下はそこに車を停めた。

「……早智子さん、」

 静かな声だったけれど、早智子はあっさりと目を開く。

「目が覚めた? よく寝てた」

 松下がそう声をかけると、早智子がはっとしたようにこちらを見た。

「あっ……、」

 一声あげられた声と共に、早智子の頬がぼんやりと紅潮したのが松下にもわかった。

「……すみません……」

 恥ずかしげな声が、そう告げる。そのまま早智子は俯いてしまった。松下はくすと笑って、早智子の髪にわずかに触れた。

「疲れてましたね? こちらこそ、すみませんでした」
「……あの、本当に、すみません」
「気にしないで、ここから道案内、お願いします」
「あっ、はい、……、あ、今何か飲み物買ってきますから、」

 あたふたと慌てる早智子に、松下はまた少し微笑む。

「いいですよ、」
「いえお詫びに、」

 早智子は車をおりると、後部座席のドアをあけ、鞄から財布を取り出し、ドアを閉める。起き抜けとは思えない素早さだった。どうしても止めなければならないという状況でもない。松下はかすかに頬を緩めて苦笑し、それから一度、車のエンジンを切った。
 静かな夜だった。
 日付変更線を越えて30分程が過ぎている。車は途切れることなく走っているものの、人影は見あたらない。コンビニの駐車場に停められた車もみな一様に静かだった。
 店の入り口からは少し離れたところに停められた松下の車に、早足で早智子が戻ってくる。
 幾分か恥ずかしそうに微笑み、それから車のドアを開く。

「カフェラテとブラック、どちらにします?」
「運転するから、ブラック」
「はい」

 差し出された缶コーヒーはひんやり冷たい。松下はプルタブを引き上げた。

「ありがとう、気にしなくてよかったのに」
「いいえ」

 早智子の手の中の缶コーヒーを松下はそっと取り上げ、プルタブをあげてから返す。

「……ありがとう、ございます」

 少しだけ驚いたような声で早智子が謝意を述べる。けれどなんとなく淋しそうに見えた。松下はわずかに苦笑し、首を傾げるようにして訊ねる。

「……どうしたの?」
「え?」
「何か……、帰らせにくい顔、してますから。別れがたい顔」


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あきゅろす。
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