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15 煽動者 











深い夜。 鋭利な三日月がくっきりと窓の外に浮かぶ。
雲ひとつなく、月明かりは遮られるものもなく、ただ冷たく白い肌を白く冷やす。
電気を消しても、まるで部屋には明かりが明かりがついているかのように明るい。
質の良い絹のシーツは不自然にしわを作り、うねりながらよれていく。
静かな静かな夜に、衣擦れの音と、金属が軋む音、そしてその音に合わせて淫らな水音、苦しむ声が絶えることなく響いた。

肌触りのよいシーツに顔を押し付けるようにして生理的に溢れ出した涙を吸わせた。
しかし絹は水を弾き、涙は珠のようになってころころと転がるようにして流れた。
その光景に彼は失望した。 咄嗟に目を瞑り、次の瞬間襲ってきた刺激に唇を噛んだ。
己の意思とは関係なく身体が反応を示してしまう。思わず漏れてしまいそうになった声を水を吸わない絹に吸わせる。

「く…ぅ…っ、くふっ…」

全身をシーツに這わせ、腰だけを高く上げさせられる。
すぐ後ろに腰を密着させている同体系の男は、彼の細腰を両手で掴み、腰骨がぶつかり合うほど激しく、激しくしかしどこかしなやかに動いている。
そのしなやかさは優しさがにじみ出るものだった。的確に腰を動かしつつ、けれど最奥は激しく突かない。
後腔の浅い部分で挿出は行われた。
入り口を解すために使ったクリームが溶けて掻き出され、重力に従うがままにシーツに垂れていった。

月明かりは容赦なく二人を照らし、卑猥な光景をより一層濃くする。

ルルーシュは白かった。 うっすら浮かぶ汗が月光に反射し、まるで彼の身体を発光させているようだった。
背中に浮かぶのは綺麗な曲線を描いた肩甲骨。 自分が動くたびにゆらゆらと揺れ、本当にその骨が人間にあった翼の名残であるという話を信じてしまいたくなるような感情を引き起こした。

綺麗、と口に出したらきっと彼は怒る。だから言わない。
扱いが難しい皇子様はけれどとびきり淫らで、美しい。
うつ伏せにさせてしまっている所為で一番美しい濃い紫の眸は見えないけれど。
スザクは、ルルーシュが彼の顔を見れないことをいいことに口だけで「きれい」と言った。声には出さず何度も、何度も。
いつものようにゆっくり、ゆっくりと二人は交わった。


しかしその訪れは突然だった。

月に、そっと雲が差した。
ほんのすこしだけ部屋が暗くなる。
その情景は、まるで……

―――ゼロ。

スザクは、ふと脳裏に黒い存在が忍び寄るのを感じた。 
ぞっとした。身体は欲情し、燃えるように熱いのに。

一瞬の戦慄。 
先日見た、土砂に埋もれた罪も無き人々の姿がぬるりと記憶に入ってくる。
救うはずだった…、否違う。ゼロに、黒の騎士団に殺された人々。

――――ゼロは、

結局何も救っていない。 無駄に理想論を掲げ、無駄な血を流し、無駄な権力を振りかざしている。
少なくともスザクはそう思う。 自分は人々を守るための軍人であるはずだから。

―――もし、もし本当にゼロがブリタニアを崩壊させてしまうとすれば…

ルルーシュは?





「ぅ、…く…ぁ」

目の前にいる愛しい人。この腕に抱く綺麗なルルーシュ。
彼は正真正銘あのブリタニア皇帝の子供、王家の血筋の者なのだ。ゼロの毒牙にかかる可能性はある。
スザクは冷えた身体がまた熱を持つのを感じた。 果てない肉欲が疼く。
自分でも驚くほど彼の中に挿入した性器が質量を増したのがわかった。

「っ…、うぁ…ぁ」

突然の変化にルルーシュは思わず声を上げた。淫らな声はいくら堪えようとも溢れ出しまう。
スザクは激しく腰を使い出し、ルルーシュ追い上げ始めた。
少し膨らんだ前立腺をしつこく攻め立て、徐々に肉壁を押し分け最奥へと進んでいく。
抜き差しするたびに深く、深く、灼熱の楔が身体の芯を突き破ってくる。

「ぃ、や…ぁ、…ふ、ぅ……っ」

ここまでくるともう自分で自分のコントロールができなくなってくる。
あげないようにしていた声も、淫らに誘うように揺れる腰も、もう彼の感覚外だった。
ただ唯一スザクの性器が熱くて、熱くて、熱くて。

「ぁ、ああ…あ…!」

首を反らせてどうにか見た月はもうぼやけて朧月のようだった。
ゆらゆら、ゆらゆらと自分と一緒に揺れる。

「ルル…だすよっ」

律動の間隔と上がる声の間隔がだんだんと短くなり、二人は同時に絶頂へ追い上げられていった。
とろとろと、透明な蜜が性器から溢れ出、陰茎を伝う感覚が一層リアルになる。
スザクは欲望の赴くがままに今までで最奥のルルーシュの中へ無理矢理性器を捻じ込んだ。
そしてそのまま熱い迸りを撒き散らし、ビクビクと震え、性器全体を熱く抱擁する肉壁を甘受した。
脊椎に走るように流れる快楽の電流はスザクの射精をより激しいものにした。
驚くほど長く続き、ルルーシュは射精後の特有の甘い疲れに浸る間もなく、最後まで苦しまされた。
暫くして射精がお互いに治まると、ぐったりとシーツに埋もれたルルーシュがまず先に口を開いた。

「ふ…ぅ…。 オイ、スザク早く抜…」
「ね、ルルーシュ」

けれどその要求はあっさりと遮られてしまった。
スザクは考え事をして、それを誰かに言おうとするとき、一切周りが見えていないらしい。
どんな状況であろうと自分の考えを貫いて妥協をせず話を遮ってまで口に出すのだ。
それを天然というのか強情というのか周りが見えない馬鹿というかはわからないが。

「何だ」

ルルーシュはスザクの言葉をそっけなく返した。 正直疲労が激しいのだ。
それより早く挿入されたままの性器を抜いてほしい。

「ルルーシュは、ゼロを支持しているの?」
「は?」

ルルーシュは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
この状況、このタイミングで言うべきことではない。

「シンジュクのことも、河口湖のことも、ナリタのことも…」
「スザク…?」
「君はもし、ゼロがブリタニアに本格的に攻め入ってきたら、君は、」
「……」

何をいきなり言い出すかと思いきや。ルルーシュはため息が吐きたくなった。
スザクの言いたいことが見えてしまったからだ。

「ゼロが目指すのはブリタニアの崩壊だ。ブリタニアの皇子である君もー…」
「殺される、かもな」

今度はルルーシュが彼の言葉を断ち切った。
冷たい、凛とした声はスザクの心臓の鼓動を一瞬早めた。

「…殺される、だろうな。俺だけじゃない、ブリタニアの血を引くものすべて。
ゼロが一体どういう世界を造ろうとしているのかは知らないが、少なくとも皇族は邪魔にしかならないだろう」

「だったら…!!」

スザクは声を荒げた。けれどその先は言わなかった。 振り向きざまにルルーシュの綺麗な紫の眸が彼を射抜いたからだ。
漆黒の髪に白い身体。そして突き刺さるような彼の紫色の視線。

「だったら何だ。俺がゼロを支持しようがしまいがお前には関係ないことだろう」
「じゃあ、支持しているというのか!あの煽動者を!無為に血を流し、罪も無き人を殺し、ただ世界を混乱させている
だけの偽善者を!どうして…」

「スザク、俺はゼロを支持するなどとは言っていない」
「でも…」
「ただ、」
「ただ…?」



月明かりは残酷に二人を照らしている。
罪を洗い流してくれるような神々しいその光はけれど心の闇までは照らさない。




「お前は軍人で、ブリタニアを護らなければならない。ただ、それだけのことじゃないのか」




ルルーシュは静かに眸を閉じ、うつ伏せたまま笑った。










>>ゼロはブリタニア皇族虐殺とかしたら怖いなぁ

2007.1.16 踏桜
2007.7.7 加筆修正




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