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ルルーシュ・ランペルージ、私立アッシュフォード学園に通う、ごくごく普通の男子高校生。しかしその裏の顔は、世界が今もっとも注目を集めている、怪盗、零の正体である。いかに警備が厳しい所であろうとも、まるで風が吹き抜けるように簡単にすり抜け、世界的に名高い美術品をことごとく盗んでいく、大悪党。しかし、その真の目的は、美術品に憑いた悪魔と呼ばれる邪悪な「人間の心の闇」を回収するべく、神に与えられし神聖なる力でもって美術品を封印しているのだが、そのことはもちろんトップシークレット。零が神に使命を受け、悪魔を回収するために美術品を盗んでいる、などと知る人間はいない。

今宵も、零は闇を駆け、悪を封印するために、一人美しく、舞う。



神風怪盗零-ZERO- 



中世、イギリス。その日、人々に魔女とされた一人の女性が、火あぶりの刑に処された。彼女の名はマリアンヌ。ルルーシュの前世だ。
「マリアンヌ……」
その大きな絵には、凛とした、彼女が舞う姿が描かれていた。騎士としても名を馳せたマリアンヌ。ルルーシュは複雑な面持ちでその絵をじっと見詰めていた。
「ルルーシュ」
遠くから、少し響く声。広く美しい教会の中に佇む一人の青年に、ついにスザクは話しかけた。日はもう沈みかけ、教会内はステンドグラスが夕日を受け、オレンジ色に染まっている。
「ああ、そろそろ行こうか」
「大丈夫?」
「平気だ」


ルルーシュがイギリスへ行く、と言い出したのはつい一週間ほど前の事だった。夏休みを利用し、自分の前世であるマリアンヌの生地を訪ねたいのだという。あまりにもあっさりとんでもないことを言うルルーシュに驚きつつ、もちろんスザクは反対した。一人でルルーシュを外国に行かせるというのが心配でならなかったのだ。けれど彼の意思は変わらず、スザクに反発してまで行こうとしたので、仕方なくスザクもルルーシュに同行することで同意し、二人で行くこととなった。

「イギリスか…」
日本を数十分前に発ち、身を圧迫され続ける離陸飛行が終わり、水平飛行に入った飛行機の中で、ぽつりとルルーシュはつぶやいた。ルルーシュは窓側の席に座っており、近づいた太陽から雲を通さず降り注ぐ光がルルーシュの白い頬を明るく照らしていた。
「ルルーシュ、イギリスは初めてなの?」
あまりにも不安そうに言うので、スザクは思わずそう問いかけてみた。
「ん、言ってなかったか?俺はイギリス生まれなんだ」
「あー、そっか。じゃ、里帰りみたいなこと?」
「……まぁそのようなものだ」
少し何かをぼやかすように言ったルルーシュ。その理由を、スザクは翌日知ることになった。

長いフライトの末、二人は漸くイギリスに到着した。スザクは初めて見るイギリスの景色に目を奪われつつ、慣れているのか、あっという間に進んでいくルルーシュの後へと着いていった。もちろん、全ての荷物はスザクが全身で抱えている。ハンドバック一つで早歩きをするルルーシュに難なく追いつくスザクは、流石体力馬鹿といったところだろうか。 と、入国ゲートを出たところでルルーシュは目的のものを何か見つけ、同時に驚きの声を上げた。
「ああ、いた……え、あ、兄上?」
「え?」
何事かと思い、急いでスザクがルルーシュの視線の先を見ると、そこには数人の黒いスーツを着た大人と、その中心に金髪の、美しい青年が立っていた。
「あ、あにうえ?」
まさか、と思いスザクはぱっとルルーシュの顔を見た。しかし驚いているスザクをよそに、ルルーシュはすたすたとその人物に向かって歩き出していた。
「クロヴィス兄様……」
「やぁ、元気にしていたかい?ルルーシュ。遠くからわざわざ有り難う。会えて嬉しいよ」
二人は頬へのキスやハグを交わし、再会の喜びを分かち合っていた。ルルーシュはそれを難なくこなしていたが、しかしどうも嬉しそうには見えなかった。スザクはいまいち状況が読めないまま、その場で立ち尽くしていた。

「ルルーシュ、の、お兄さん!?」
「そうだ。俺とコーネリアの間に位置する人だ」
長いフライトの後は今度は快適な高級車に乗り、漸く事情を聞かされたスザクはまた驚いていた。
「ルルーシュ…お兄さんがいたの!?」
正直スザクはあまり自分のことを話さないルルーシュについて、知っていることより知らないことの方が多いというのはわかってはいたが、まさかルルーシュがコーネリア以外に兄弟が居て、さらにこんな高級車を所有する家の子だったとは。スザクはルルーシュとクロヴィスを交互に見ながら目をぱちぱちとさせていた。
「ああ、驚かせてすまなかったねぇ、スザク君…と言ったかな。ルルーシュは変にシャイなところがあるからね」
「ふん…」
ルルーシュは自分のことをからかうように言う兄から顔を反らし、いかにも不機嫌そうな顔で流れる景色を見ていた。事情はよくわからないが、どうやらルルーシュは兄の事をあまりよくは思っていないらしい。クロヴィスはそれに気づいているのか気づいていないのか、まるで母親のようにルルーシュにしきりに話しかけては気を引こうとしている。
「して、ルルーシュ。日本での生活はどうなんだい?」
「別にどうもしませんよ兄様。コーネリアと共に楽、し、く、過ごしています」
「そうかそうか。それはよかった。ああやはりコーネリアも呼べばよかったかなぁ」
「いえ、姉上は忙しい身ですので」
とここでルルーシュはクロヴィスに気づかれない程度に含み笑いをした。その理由がスザクにはコーネリアがルルーシュの真の正体である怪盗零を捕まえる立場あるということと、そのコーネリアが今、ルルーシュの居ない日本でC.C.の操る偽零に振り回されているということだということは、すぐにわかった。 

三人で他愛もない話をしている間に、どうやら車は目的地に到着したらしい。
「さぁ、着いたよルルーシュ。足下に気を付けてお降り?」
「はい、クロヴィス兄様」
ここでもクロヴィスはルルーシュに温かい…というか、まるで恋人に話しかけるかのように声をかけた。先に車を降り、差し伸べられた手にルルーシュは渋々掴まり、ゆっくりと車を降りていく。
「さぁ、では早速僕のアトリエに案内しようか」
「アトリエ?」
ルルーシュに続いて車を降りようとしたスザクが、張り切った様子のクロヴィスの言葉を聞き、思わずそう返した。しかし、車を降り、目の前に広がる風景を見た瞬間、スザクはその質問の内容も忘れてしまうかのような衝撃を味わった。
「わー……!」
目の前に広がっていたのは、大きく、美しい外観のまるで城のような建物。幅も高さも相当なもので、目の前に立つと飲み込まれてしまうのではないかという錯覚してしまいそうな程だった。
「る…ルルーシュ…の家すごいね……」
思わずスザクは隣に平然と立っているルルーシュに向かい、感嘆の言葉を漏らした。けれどルルーシュは相変わらず不機嫌な表情のままで、かたく口を結んだまま右斜め下方向を見詰めていたが、ふと、おろおろするスザクの視線に気づいたルルーシュがスザクの顔を見ると、ますます不機嫌な表情になりながらクロヴィスに声をかけた。
「クロヴィス兄様…スザクも連れて行くのですか」
声のトーンが明らかに違っていた。
「ああ、もちろんじゃないかルルーシュ。どうしてそんな怪訝な顔をしているんだい?」
「それは………」
スザクはまたわけのわからないままその場に立ち尽くしていた。どうやらそのアトリエとやらにはルルーシュの嫌いなもの……があるらしいが、どうフォローをしたらいいかもわからず、スザクはとにかくクロヴィスに案内されるがまま大きな屋敷の中に歩を進めた。

屋敷の中も外観を裏切らない美しい装飾で彩られていた。いかにも古風な装飾品が並べられているがそれも古さを感じさせず、現代でも尚モダンな印象を与えている。
「わー……」
スザクは歩く度に感嘆の溜息を漏らし、そんなスザクをルルーシュは落胆の溜息を吐きながら見ていた。 屋敷に入って程なくし、クロヴィスが「ここが私のアトリエだよ」と言って目の前にあった重厚なドアを開けた。開けた瞬間絵の具の特有の匂いが鼻をかすめた。
「さぁルルーシュ、これが、君に見せたかったものだよ」
太陽の光がふんだんに注ぐ明るい室内。真っ白なカーテンがはたはたと風に揺れていた。まるで淑女に道を示すかのように差し出したクロヴィスの手の先に、それは鎮座していた。大きなボードに繊細かつ温かなタッチ、それはクロヴィスの想いそのもののように感じた。
「ル………ルルーシュ……」
そこには、あまりに美しいルルーシュが描かれていた。








お待たせしておいてまた半端ですみませ…続きます!
07.10.06 踏桜



あきゅろす。
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