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28 耳朶にそっと








ギシ…と、ベッドのスプリングが二人分の重さに比例して軋んで音を立てた。
彼らは互いに黒の学生服を着たまま、組み敷き、組み敷かれている。
日もとっくに暮れ、月明かりが差し込むだけど、薄暗い部屋の隅にある少し大きめのベットの上。
スザクは眼下に居るルルーシュを静かに見つめ、そして高鳴る胸の鼓動に耳を塞ぎ、意を決して固く結んだその唇を解いた。

「キス、して…いい?」

漸く絞り出せたその言葉は驚く程小さなものだった。
緊張か、興奮か、どちらともいえない状態で、覆い被さるスザクの腕は僅かに震えていた。
胸はさらに高鳴り、心臓の音が組み敷いているルルーシュに聞こえてしまうのではないかと思う程だった。
一方、あまりにも素直に、純粋に、緊張を顔に出すスザクにルルーシュは笑いを堪え、震える腕をそっと指でなぞった。
そしてそのまま、薄暗い室内でも一際輝く、スザクの綺麗な緑眼を見つめながら言葉をそっと返した。

「ああ。いいよ…スザク」

その優しく、落ち着いた口調に、スザクは赤かった顔をより赤くして、再びきゅ、と口を結んだ。
スザクは、身体の震えが増していくのを感じ、同時に己の彼に対する欲情を意識した。

目の前に居る、ルルーシュ。
ずっと会いたかった、ずっと恋い焦がれていたルルーシュ。
スザクは高鳴る胸が締め付けられるのを感じた。


七年というブランクは二人を無理矢理大人への道へと誘い、辛く苦しい様々なものを経験させた。
スザクがあの日、ルルーシュと別れ、軍に入り、シンジュクの地下で再び会ったあの瞬間。そして現在。
ルルーシュは子供の時以上にますます綺麗になっていると思った。
本当に、このシーツの白に溶けて幻のように消えてしまうのではないかと思ってしまうほど、今のこの状態はスザクにとって本当に特別なものだった。

確かめたい。己の腕で繋ぎ止めたい、とスザクは思った。
もう二度と離れないように……。


スザクはルルーシュの言葉に甘え、接吻をしようと、ゆっくり顔を降ろした。
それに合わせてルルーシュもその長い睫毛を伏せた。

薄暗い、ルルーシュの部屋。
少し大きめのベットの真ん中で、二つの影が静かに重なった。
触れるだけ、いっそ神聖とも言える口付け。

柔らかなルルーシュの唇を感じながら、スザクは涙が出るのを必死に堪えていた。
触れてみて初めてわかる、鼻腔をくすぐるさわやかで少し甘いルルーシュの匂い。
戯れのキスをしながら無意識にスザクは顔の近くにあったルルーシュの手のひらに己の手を重ねた。
そしてそれにゆっくりと指を絡め、強く握った。ルルーシュも握り返した。
神聖なキスは、深く、エスカレートすることなく、ただゆっくりと流れていった。

暫く浅いキスを繰り返し、息苦しくなったルルーシュがスザクの背中を優しく叩き、漸く二人はキスを終えた。
夢中になっていたスザクは我に返り、焦りながら短く謝った。
そんなスザクを見てルルーシュは思わず微笑んだ。
見ると、その唇はスザクの唾液で僅かに光っていた。

「ルルーシュ……っ!」

そのあまりにも扇情的な姿を目の当たりにし、スザクは思わずルルーシュを抱きしめていた。
急にきつく抱きしめられたことに、ルルーシュは驚き、少し声を上げた。
しかし、スザクがそのまま頭をぐりぐり耳に押し付けてくるものだから、ルルーシュは苦笑して優しくスザクを抱きとめた。

「ホント…心配で…ッ、君のことが…。あの日、会えて…嬉しくて…っ」

スザクは泣きそうな声で言葉を漏らした。 ルルーシュは目を閉じ静かにその声を聞いていた。

「生きていてくれて… よかった…」

確かめられた、ルルーシュの体温。ここに今居るという証。
今はただただ純粋にそれが嬉しかった。

抱きしめる腕の力が強くなっていく。それを全身で受け止めながら、ルルーシュはスザクの髪の毛を撫でた。
そしてそのまま顔を横に向け、少し大きめに音を立てて、スザクの耳朶にそっとキスをした。

「…ぇ、ルルーシュ…?」

スザクは驚いて身体を起こそうとしたが、今度はルルーシュがスザクの背中に腕を回して抱きとめ、それは叶わなかった。
そしてルルーシュは小さく、スザクに聞こえる程度の声で耳元にそっと囁いた。

「俺もだよ、スザク。 お前が生きていてくれて…本当に、よかった。嬉しかった。
…だからスザク、もう、一回…」

スザクは背中にあるルルーシュの手を優しくほどき、身体を少し起こした。
そして眼下に居る愛おしいルルーシュの顔を改めて見詰めた。
吸い込まれそうな程美しい、宝石のようなアメジストの瞳。そしてシーツに溶けてしまいそうな白い肌。
シーツに広がる絹のような黒髪。
スザクは片方の手を曲げ、指で髪の一房を掬い、その滑らかな感触を確かめた。
そしてそっとルルーシュの顔を両手で掴んで固定し、次の瞬間には制御の効かない、貪るような長い、長い激しいキスを仕掛けた。

「ずっと、ずっとずっと好きだった……ルルーシュ」

途中、熱く湿った溜め息混じりにそう言って。










>>スザクをまだあんまり理解していないですねorz
006.12.02 踏桜
2007.7.03 大幅加筆修正





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