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52 夜の果て








夜の果てには勿論朝がやってくる。
そんなことは当たり前にわかっていて、しかしその事実が今余計に悲しく感じる。
大半の人間が夢の中にいるであろう早朝4時。
枢木スザクは恋人の家の前にいた。

「はぁ」

朝ぼらけの学校の一角で溜息と吐く彼には既に大人の哀愁が漂っている。
握りしめた手を何回か動かしては目の前に広がる屋敷を見上げ、また視線を下に戻しては溜息を吐く。
そんなことを10分ほど繰り返していただろうか。

彼に逢いたい。彼に触れたい。
その想いだけが今のスザクを突き動かそうとしていた。

ここ最近はまた軍務の上に、騎士としての仕事も多く、今日も仕事が終わったのは結局朝方近かったが、スザクは軍の宿舎に帰るその足でルルーシュの自宅へと向かっていた。

仕事の所為で宿舎と軍を往復する毎日が続き、生徒会どころか学校に顔を出すこともあまりできなくなっていた。
つまりは、学校という接点だけの彼にも会っていないことになる。

ルルーシュとは既に身体の関係でもあるのだ。けれど
こんな夜這いまがいな事をしたら、彼の怒りは収集つかなくなってしまうだろう。
ただでさえ低血圧で寝起きが悪く、予想外の事に弱い彼だから。
数十分の心の葛藤出した結論は「寝顔だけを見る」というものだった。
そっと気づかれないように、一目見れればそれでいい。それだけで満足出来るはずだ、と。
軍人でいくら気配を消すのが得意でも、あまり自信のない言い訳をしてスザクはついに合い鍵を使った。

しん、と静寂が包み込んだ部屋の端にある少し大きめのベットに、彼はいた。
真っ白で皺一つないシーツが少し膨らんで、綺麗な曲線を描いている。
スザクはごくりと唾液を飲み込んだ。
軍で習った進歩法。足音を立てず、気配を消して、ゆっくり、ゆっくりと。
よもやこんな場所で役に立つとは思わなかったが、スザクは慎重に慎重を重ねて彼に近づいた。
鼓動が早い。全身に嫌な汗が滲むのがわかった。

やっとの思いで近づいて、漸く再会できた彼。
久々の彼は、白いシーツに溶けるような白い肌が際だち、それに映えるであろう紫の瞳は今は伏せられ、長いまつげがぴくぴくと揺れている。
いつもの大人びた彼とはあまり想像つかないような綺麗で、でもどこかあどけなさを残している寝顔をしていた。
規則正しい呼吸音を聞いて少し心が落ち着くのを感じた。

可愛いな、と素直に思う。
可愛く、けれどとても妖美で、美しい。

この先、また仕事が重なると、会えるのがいつになるかわからない。
スザクは急にもどかしさを感じ、きゅ、と唇を噛みしめた。
でもこれも仕方がない。これが自分で歩むと決めた道。
いつか、日本人もブリタニア人も平和に暮らせる日が来たら、

そしたらそこには自分と彼がー……

ぐっすりと眠る彼に、スザクは先ほどの決心が揺らぐのを感じていた。
しばらくじっとして、けれどやはり耐えきれなくなり、
これくらい、大丈夫と勝手に自分に言い聞かせて、ゆっくりと身体を屈めた。
そしてスザクは息を止めて、彼が目を覚まさないようそっと、彼の唇に自分の唇を押し付けた。
音もなく、ほんの少しだけ触れる互いの唇。
けれどそこから伝わる彼の吐息と体温に、スザクはどきりとして、すぐに唇を離した。
彼が未だに夢の中にいることを確認すると、スザクはルルーシュにあっさり背を向け、自分の最後の決心が揺らがないうちに、部屋を後にしようとした。
けれど。

「ん、スザ…く」

突然背後から名前を呼ばれて、スザクは声にならない悲鳴を上げて振り返った。
瞬時に冷たい汗と血液が、全身を駆けめぐる。
びくりと振り向いて見ると、未だ彼は夢のなかのようだった。さらに見ると、薄く開いた口をもぐもぐとさせて何かを言いたげにしている。
つまり、これは…

「寝言…?」

焦っていた脳がそう理解した瞬間、スザクは緊張が解け、思わず大きな溜息を吐いてうなだれた。
彼が起きていたらどうしようかと思ったが、けれど、
冷静になってよくよく考えてみると、寝言で自分の名を呼ばれるのはとても嬉しいことなのではないか。
堅物で、何を考えているのかよくわからない彼でも、寝言を言うくらいまでの夢を見ているのか、と。
否、実際は寝言を言っているからといって夢を見ているのかはわからないが。
けれど、寝ていながらでも自分の事を考えてくれている、彼の素直な心にスザクは感動を覚えた。
ふつふつと込み上げてくる何かを押さえられそうにない。

「ルルーシュ?」

ベットから少し離れた位置にいたスザクは、再び近づいて、床に膝をついて彼を見た。
そして優しく穏やかに呼びかけてみる。
すると彼はまたもぐもぐと口を動かし、ぴくりと眉を寄せた。

「ん、スザ…く、スザク……」

彼は何回も、スザクの名を呼んでいた。

「ルルーシュ………」

そんな彼をスザクは愛おしげに見つめた。
寝ていながらも自分の事を覚えていてくれるなんて。
彼の事が好きだ、と改めて実感できた瞬間だった。
どくどくと荒れ狂う心臓の音にスザクは一瞬理性の危機を感じたが、それに聞こえない振りをした。

…最初に決意した「寝顔だけ見る」という目標は
あまりに可愛らしい彼の言動によって、あっさり打ち砕かれてしまったらしい。
これはルルーシュの所為だ、とスザクはまた勝手な言い訳をぼんやりと考えていた。



ばさりと勢いよくシーツをめくると、ルルーシュは寒さに震えるように少し身を縮ませた。
横向きに眠るルルーシュの身体を無理矢理仰向けにさせ、ベットに縫い付ける。
覆い被さるように彼の顔を見れば、未だ熟睡した様子だった。
濡れた唇はてかてかと光り、まだ何か言いたげに動いている。
でもこれ以上何か言われたら、スザクは歯止めがきく自信がない、と思っていた。
だから、静かに、その唇を塞いだ。

最初は口先で少しだけ触れ、名残惜しげに離す。
そしてまた静かに顔を下ろし、今度は少し強めに押しつける。
唇と唇を摺り合わせて、徐々に熟れてくる唇の感触を堪能する。

「ルルーシュ…」

これだけ身体に刺激を与えても起きない彼は、夢を見ながらもどれ程熟睡しているのだろうか。
彼は低血圧で寝起きが悪い、ということはよく知っているのだが、よほど疲れているのかそれとも夢に見入っているのか… 未だ彼の起きる気配はなかった。

「ん……スザク…」

夢に出てきているのかもしれない自分の名前を呼ばれてスザクはまた胸が跳ねる。
顔中にキスの雨を降らしながら、耳元で彼の吐息を感じた。

と、ここでスザクはあることに気がついた。
そして恐る恐る視線を彼の下半身部に移動させていく。

「……わ」

そこには布越しでも十分いわかるほど勃起した、彼の性器。
彼の性器は朝の生理現象を起こしており、その存在をちゃんと主張していた。

既に理性の効かなくなったスザクは、ほぼ無意識に身体をずらして彼の下半身を覆うズボンをずり下ろした。

「ん……」

下ろすと、突然下半身が冷気に触れ、わずかに彼はびくりと震えたが、それも気にせずスザクはさらに彼の黒い下着を脱がした。
完全に露わになった彼の性器は既に先走りの液を零していた。
寝ていながらもキスで感じてくれたのだろうか…。
そんなことを冷静に考えてしまう自分が少し恐ろしかった。

彼のあられもない光景を目で確認すると、スザクはさらに身を屈めて、ついにその性器を口に含んだ。
先端部分を舌で弄び、徐々に口の奥へと導いていく。

「ん……!」

さすがの彼も性的な刺激に驚いたのか、全身を震わせて反応を示した。
同時に口の中に含んだ性器もびくびくと震えはじめ、先走りの液を淫らに零した。
その御陰で滑りがよくなったのをいい事に、スザクはより深くくわえ込むと、そのまま口を上下に
スライドさせて、口内と唇の肉で性器全体を抜き上げた。

「んぁー……!あ、ざ…く…っあ、あん……っ!」

これは起きている彼にやるととても怒られる口淫の方法の一つ。
いつもならやろうとすると髪を強く引っ張られ、全力で抵抗されるのだが、寝ている彼にはそれはなかった。
むしろ、スザクの与える刺激に合わせて普段の少し低いテノールの声とはうって変わった、高く響くような嬌声をあげるようになっていた。

この声にスザクは驚きと興奮を隠せずにいた。
彼は情交の際、己の声を酷く恥じる傾向があったからだ。
敏感な身体ではあるらしく、しかしやはり己の意志とは裏腹に出てくる嬌声を必死に彼は抑えていた。
その姿も扇情的で、スザクは好きだったのだが、けれどいざここまで声を出されてしまうと今度は自分の精神がもたなくなってしまうのではないか、と思った。

「はぁ……ぁ…ん……っ、ああ、きもち…い…」

でもありえない。平生でこんな事を言う彼は………。

どくどくと、興奮から心臓が酷く大きく脈打つのを感じながらも
スザクは彼にひたすら奉仕を続けた。

久々の彼の嬌声、しかもこんなに甘い…。

「ルルーシュ…気持ちいいの…?」

一端口を離し、今度は指先で性器をやわやわと刺激しつつ、スザクは問うてみた。
指先にはねっとりと半透明な先走りの液が絡みつき、卑猥な音を響かせている。
完全に勃起してもまだ幼さを残す彼の性器はスザクの手中に簡単に収まり、そしてスザクの器用な指先が執拗に少し張り出た先端部分を刺激した。

「ぁ………ん…っ…」

口淫とは違う、ざらついた指による荒々しく、強い刺激に彼の身体はますます震え、何かに縋るように手元のシーツを手繰り寄せた。

「ルルーシュ……、僕に、こうされたかった…?」

確認するように再度スザクが呼びかける。
指の動きは未だに止めないままで。
断続的に続く刺激に、ルルーシュは身を悶えさせながらも、必死にスザクに訴えた。

「ぅ、ん、ぁ……いい、ぁ…うれし、ぃ……スザク……っ」

そう言って柔らかに微笑む彼の寝顔は本当に光の差した女神のようで。

耐えきれなくなってスザクはズボンから己の分身を取り出した。
片方の手ではルルーシュのを、もう片方では自身のを握り、同時に扱き上げた。

彼と快楽を共有しているというこの感覚にスザクは酩酊した。
そして己の限界が近づくと、手の動きを早め、高くなっていく彼の声を聞きながら一緒に迎える絶頂の瞬間を待ちかまえた。

「ん、ん、ルルーシュ……っ!」

二人の荒い息がまだ朝ぼらけのルルーシュの部屋を包む。
日は少し昇り始めた程度で、部屋の中はまだ薄暗い。

夜の果てにはまだもう少しかかるらしい。

「はぁ……ぁあ、んっ」
「ルルーシュ…っ」

絶頂を迎える時の、彼の一層高い声。その声と手の刺激だけでスザクも達した。
同時に二人の性器が弾け、仰向けに寝そべる彼の身体とその下のシーツに白濁が混ざり合って飛び散った。
スザクは荒くなった息を整え、絶頂の余韻に浸りながらその卑猥な光景を呆然と眺めていた。

「は……ぁ……」

最終的にスザクに残ったのは、より増大した罪悪感と、言いようのない空しさだった。
そしてその二つをどうにかやりすごそうと、とりあえず盛大な溜息を吐いた。
けれど、もちろんそんな事で拭える簡単なものではない。
しばらくスザクはベットの上で項垂れていた。

そして数分後、さて、これからどうしようかとスザクがやっと考え始めたその時だった。

……ッピピピピピピ!!

突如、部屋に巨大な機械音が響いた。
スザクはそのあまりにも大きい音にびっくりして危うくベットから落ちそうになった。
何事かと音源の方向を向くと、そこは寝ている彼の枕元で。同時に、

ばっちり目を覚ましたルルーシュと目が合った。

「……お、はようございます……」

油が切れたロボットの様にギシギシと身体を震わせながら、スザクは思わずそう言葉を発した。
絵に描いたように焦るスザクを見て、当のルルーシュも何事か理解したのかしないのか。
にっこりと美しい微笑みをスザクに向けた。

「おはよう、スザク?」

寝起きの皇子様は、さぞ機嫌が悪そうだった。








>>20702リク「天然誘い受けルル」でした。茉季様ありがとうございました。
07.5.22 踏桜
07.7.7 修正




あきゅろす。
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