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41 蕀姫(いばらひめ)







かの富豪、アッシュフォードが建てたこの広く美しい学園の廊下をひたすら、何かに追われるように走っているのは、今の世間を一色に染めている圧倒的な存在、ゼロである。
しかしその正体は、体力がなく、たった校舎の端から端に到着する前に既に息は切れ、走るスピードも
数分ともしないうちに、歩くのとほぼ同じほどになってしまうような、華奢な男子学生、ルルーシュ・ランペルージである。

彼は、頭だけは切れる人間で、どんなに身体が悲鳴を上げても決して警戒は怠らず、ぜぇぜぇと息を切らしながらも後ろを何度も振り返り、追っ手がいないことを確認した。
しかしほっと息を吐く間もなくルルーシュは再び走り出し、今度は階段をのぼり始めた。
いつも授業をさぼり、屋上へ逃げる彼が見つけた取って置きの隠れ場所。
そこならあの男も見つけられはしないだろう。
それほど階数があるわけではないこの学園。けれど今のルルーシュにはとてつもなく長く感じた。
それもこれも、全て動きにくいこの服の所為。

「クソッ…!こんなものっ!」

潔い舌打ちが似合わない今の彼。
学園一の美男子は、学園一のマドンナに変身していた。




これもいつものことながら、あのお気楽悪趣味会長の所為。
不真面目に学校をさぼったり、授業も寝ていたりしたルルーシュが、ここ最近はさらにゼロのこともあり、一日丸々休む事も多くなっていた。
もちろん生徒会にも顔を出せず、学園の行事ごとなどもすべて他の生徒会メンバーに押し付ける形となっていた。
そのことにメンバーが怒りを覚えていたのもルルーシュはわかっているつもりで。
わかっていて、後で何かしらお返しをしようとは考えていたのだ。
しかしそれを行う前に彼女らの怒りは既に噴火していたらしく、怒涛の学園祭が終わった数日後、久々に顔を出そうと生徒会に入ったと同時に手足をロープで縛られ、椅子に羽交い絞めにされた。
三人がかりで押さえ込まれ、抵抗の声を上げる隙もなく押さえつけられたルルーシュが最後に見たのは
どす黒い笑みを浮かべながらその手にロープを持ち、さながらSM嬢のように構える金髪美女の姿だった。


…そういうわけでこの格好。
細い身体にぴったりとフィットする、淡い色のピーコートのようなジャケット。
そして細く、女子のような白い足を惜しげもなく出させる、膝上二十センチもありそうなギリギリラインのミニスカート。
少しでも露出を減らすためのオーバーニーソックスも、彼の脚の形のよさを引き立てる以外ものではなくなっている。
さらに今回熱の入ったミレイはあろうことか身動きが取れないルルーシュに自前の道具で化粧をした。
この格好をさせられるのはルルーシュ自身何回目にもなり、その度にさらりと何気ない顔でかわしてきたのだが、今回はその女装に化粧がついただけでなく、さらに最悪な事に、

あのイレギュラーが。

『…あ、会長さんですか?枢木ですけど、すみません…ここ最近顔を出せなくて。
今日はめずらしく仕事が早く片付いたので、授業には出れませんでしたけど、これから生徒会には行きますね。
後五分くらいで行くと思います。はい。ではまた』

無理やり着替えさせられ、疲労困憊したルルーシュの耳に入ってきた電話の音、そして会長とスザクの会話。
このままでは、スザクにこの格好を見られてしまう。
そう考えた瞬間、ルルーシュは生徒会室から逃げ出していた。

我ながら決まりの悪い姿だとは思う。
あろうことか男が女装をし、そのまま学園内を駆け回り、最終的に屋上の壁に手をついて荒くなった息を整えている。
…奴が来る事など想定外だった。
ここ最近は彼もユーフェミアの騎士としての仕事も忙しく、よりによってこんな日に学校に来るなど思ってもみなかった。

容赦なく脚の間に風が入り込んで寒々しいスカートに舌打ちをしながら、ルルーシュは、苦しいまでに乱れた息を整えながら目的の隠れ場所を探した。

そうだ、見られたくない。大の男がされるがままこんな女装や化粧をしているところなど、スザクだけには決して見られたくない。
見たら何を思われるかわからないし、なにより、一方的に見られるだけは己のプライドが許さなかった。

ここはしばらく様子を見て、スザクが気づかないようにそっと家に戻って着替えるしかない。

ルルーシュがいなくなってまず探されるは学校に隣接する自分の家であろうし、先に帰って着替えたとしても、問い詰められたナナリーがそれをバラしてしまう可能性がある。
極力ナナリーには嘘を吐かせたくはないし、純粋で無垢なナナリーの事だ。嘘を言うよう指示してもきっとしどろもどろになって、勘の鋭い会長らにはどのみちバレてしまうだろう。

そんな妹の事を考えながら、ルルーシュは何気なく屋上から地上を見下ろしてみた。
そこからは自分の家も見えるが、数人の生徒が歩いているだけでスザクらの姿は見えなかった。
スザクはまだ来ていないのだろうか、会長らは追いかけには来ないのかと考えをめぐらせていた。その時だった。

こつ、こつ、こつ。
と、背後からほんのわずかに足音聞こえた。
ルルーシュはひゅ、と息を飲み込み、耳を澄ませてその音を聞いた。
どうやら階段を上る靴音らしい。徐々にその音は大きくなっていく。
確実に近づいてくる相手を確認すると、ルルーシュは一つ舌打ちをし、目的の隠れ場所にすぐに移動した。
そこは屋上の隅にひっそりと設置されている、小さな用具室。
中は少し埃っぽいが、授業をサボるルルーシュにとって、教師の目を欺くのには丁度良い場所だった。
ここなら外の騒音も半減される。

ルルーシュが用具室に入って間もなく、その追っ手は姿を現したらしい。
一人なのか、声も出さないので誰だかはわからなかった。
ルルーシュはただひたすらその追っ手が去るのを待った。

「…?」

しかし先ほどまで断続的に響いていた足音は突如ぱたりと途絶えてしまった。
ルルーシュは予想外のその展開にこくりと頭を傾けながら、外の音を聞くために用具室のドアへと背中を預けた。
聞き耳を立てたが、相変わらずその追っ手の気配すら感じない。
ある種の恐怖をその身に感じた、その時だった。

「え、うわ…!」
「わっ!」

体重を預けていたドアがいきなり開いた。支えるものがなくなりそのまま外へと倒れこむ。
慌ててバランスを取ろうとしたが間に合わない。 床に叩きつけられるのを覚悟した。

「!?」

しかしその身体がそれ以上傾く事は無かった。硬い何かに上半身をぶつけて身体はとりあえず安定した。
しかし、それが人間の胸だと理解する頃には、もうルルーシュの逃げ場はなくなっていた。
目の前に広がる淡い黄色の布地。咄嗟に回した手が硬くて太い胴体を掴んでいる。
一瞬の後、ルルーシュはその違和感に気づいた。

「びっくり、したー…」
「スザク!?」

急いで身体を立たせ、顔を上げてその存在を見ることによってその違和感は解決した。
硬い身体、筋肉のついた太い胴体、けれど目の前には黒ではなく黄色の女子制服。

「見つけた」
「お前…!なんて格好を!」
「それはルルーシュも同じじゃない」

スザクもルルーシュと同様、女子制服を着ていた。




「……」

しばしの静寂が二人を包む。
ルルーシュは今の自分を見られたことに動揺しているし、スザクの格好にも驚いている。
スザクもスザクでルルーシュの事を上から下へ嘗め回すように見ていて、正直気まずい。
思わずルルーシュは短いスカートの前を掴み、少しでも露出した脚を隠すように下に引っ張った。

「あ、いや、そういうつもり…じゃ…」

その行動を見てスザクは焦ってルルーシュから目をそらした。
どうやら己の目の動きを自覚していなかったらしい。
薄暗い用具室の中で、再び気まずい雰囲気が流れた。

「……スザク」
「え…あ、そうだ!か、会長さんが探してたよ?行かなくていいの?」
「いや、それは……」

お前に見られるのが嫌で逃げたんだと、言えるわけもなくルルーシュは口ごもる。
視線を下に向け、口に指を当てて次の言葉を考えていた。

と、その指に不思議な感触を感じて視線を移した。
そこにはピンク色の口紅がかすかに付着していた。
ああそうだ、自分は会長に化粧をさせられていたのだ、と。
今更ながらに思い出して改めて自分の今の格好を恥じた。
しかし指についたその感触は少し気持ち悪く、思わず小さく舌を出して舐め取った。

どうやらその仕草がいけなかったらしい。

「うーぅ!ルルーシュ!!!」

「えっ!?…う、わ!」

突然視界がぐらりと揺れたかと思いきや、あっという間にルルーシュの身体はスザクに抱きこまれていた。
折れるんじゃないかというほど強く身体を抱きしめられ、息が苦しくなる。

「なっ…!?お前…ッ!」
「……制服、僕のもちゃっかり用意されてたみたいで…」
「は?」

スザクの言っている言葉の意図が理解できず、ルルーシュは疑問の声を上げた。

「でも、やっぱルルーシュの方が全然可愛い、ね」
「何を言って……ッ!」

我慢できないと言わんばかりにスザクはルルーシュの首筋に額をぐりぐりと押し付けてきた。
すごく嫌な予感がして、咄嗟に抵抗を試みる。

「やめろっ…!スザク!俺はやっぱ生徒会室に戻る…!」
「んーもう少ししたら…放す、から」
「ふざけるなぁっ…!」

こうなることなど予想範囲内だった。わかっていたのに。
力で押さえられたら敵わないということも、わかっていたのに。
けれども何だろうこの気持ちは。

恥ずかしいとか、逃げたいとか、そういう気持ちだけじゃない、また違う何か。
この気持ちの正体をルルーシュはまだわからなかった。

「可愛い、ルルーシュ」
「可愛くない!お前だって似合ってるじゃないか」
「僕はごっついから、似合わないよ」
「俺だって…!」

抱きしめあいながら声だけのやり取りをする。
強く密着する所為で、スザクの体温を全身で感じた。
久々の温もりだった。

ああそうか、とルルーシュは少し気づく。

「ったく……、一回、だけだからな」

あっさりと抵抗を止め、ぽつりとスザクに聞こえるか聞こえないくらいのボリュームでルルーシュは呟いた。

「え、え!?いいのっ…?」

それをスザクは聞き逃すわけもなく、内容を即座に理解し、ぼっと顔を赤くした。
何だかそんなスザクが可愛く思えて、そしてなんだか必死に走り回って逃げたことも馬鹿らしくなってきて
ルルーシュは苦笑いをしながら今度は自分から抱きついてみた。
優しく縋るようなルルーシュにスザクはまたさらにびっくりして、蟹股になりながらわきわきと手を動かした。
その姿と女装のギャップは見ていて面白かった。

「ただし」
「はいっ!」

浮かれるスザクにルルーシュは釘を刺すように言った。
何を言われるか、とスザクはびくりと身体を震わせた。

「挿れるな」

スザクに見つかってしまった以上、隠れている理由は無い。
本当はすぐにでも生徒会室に戻らなければいけないのだ。
それなのにここで最後までやられてしまえば、へっぴり腰で行く事になる。

今の、隙だらけのスザクを振り払って逃げるのは簡単な事だと思う。
それより生徒会のメンバーがしらみつぶしに学園内を探し回っていたら、それこそ申し訳ないし、すぐにでも戻って今までの御礼をした方が良いとは思う。
けれど、今この場を逃げないのは。

「………わかりまし、た」

久々の彼の温もりが、とても恋しかったから。







薄暗い用具室の中。入り口のドアは完全に閉められ、光源は小さな窓一つだけになった。
狭くて埃っぽい室内では、互いの息が一層大きく感じる。
二人の息遣いはほぼ同じ速度で、また段々と速さを増している。

短いスカートの中から互いの分身を取り出して、一緒に握り締めて快感を得る。
最初は戸惑っていたルルーシュだったが、次第に何も考えられなくなり、ただただその行為に没頭するようになった。

スザクは壁に背中を預け、ルルーシュはそのスザクに体重を預ける。
どうしても引き気味になってしまうルルーシュの腰を片手で押さえ込み、より密着させるようにした。
一方でもう片方の手では二人分の性器を握るルルーシュの手を上から包み込み、上下に抜くよう導いた。
互いのものが擦れ合う快楽と、手で擦り上げられる快楽に、二人は夢中になっていた。
ルルーシュは酸素を求めて首をのけ反らすが、その息を止めるかのようにスザクの唇が追いかけては吸い付いてくる。

「化粧…してるんだね」

吸い付き、いつもとは違う唇の感触を感じて、スザクは手の動きを止めないまま聞いた。

「あ…ああ、会長らが無理やり…っ」

息が苦しかったが、どうにかルルーシュもその問いに答えた。
スザクはそれを聞いて少し困った顔をした。

「本当に、女の子みたいだ…」

ルルーシュの顔を見ながらぼそっと呟き、感嘆の溜息を吐いた。
言われてもあまり嬉しくないその言葉にルルーシュは反論しようとしたが、スザクの手の動きは変わらず、ルルーシュはされるがままにその手を上下に揺すられていた。

「あ、やめっ…スザ……」

ぬるぬると垂れた二人の先走りが、手を濡らしていくのがわかった。
しかしそれを幹全体に塗りつける事によりますます動きがスムーズになって、二人を絶頂に追い上げていった。

性急に追い上げられるものではなく、互いに探り合いながら同時に達する事を目指すようなこの行為。
ゆるゆるとした刺激が断続的に与えられ、じっくりと快楽を味わってしまう。
性器の裏筋と裏筋の摩擦が一番大きな快楽となって背筋を駆け上がり、それに伴って全体を抜き上げる動きの刺激が追い上げてくる。

こんな狭苦しい用具室の中で、二人とも女装をして、スカートの中からはみ出る性器同士を擦り合せている。
傍から見たらなんともおかしな光景だ。
けれどもそんなことを気にする余裕などなかった。
今はただ、一緒に迎えるべき絶頂の瞬間をこの手で導く事しか考えられないほど快楽に支配されている。

「ん、ルルーシュ…っ」

再びその口を塞がれ、舌を絡ませられた。
くちゅくちゅと口元からも、下半身からも卑猥な水音がしている。
それだけで、耳から頭がおかしくなってしまいそうだった。

「ん…く…っ」

絡ませられた舌は熱く、飲まされた唾液も、飲み込み切れないほどだった。
激しい口付けは、まるでそこから一緒に溶けてしまうのではないかというほど、長く、そして濃厚だった。
唇に付けたルージュも既に互いの唾液で流されてしまっているだろう。

「ルルーシュ、も…う、いい?」

漸く口を離したスザクが、互いの絶頂をタイミングを測るかのように声をかけてくる。
余裕の無い表情でそう聞かれ、ルルーシュは少し胸が跳ねた。

「んっ!遅い…くらい…だっ!」

スザク以上に余裕のなかったルルーシュは、意地を張るつもりは無かったのに思わずそう答えてしまった。
けれど既に頭の中にはスザクとのことしか考えられなくて。それが少し悔しくて。

でも、一方的に貪られるのではなく、一緒に絶頂を目指しているこの状況にルルーシュはほんの少し、安堵していた。

「わかった……。んっ」
「ひぁ…っ!」

スザクがルルーシュの反応を見て一瞬微笑むと、その手の動きを急に早めた。
とめどなく溢れ出す先走りを巻き込み、卑猥な水音はどんどん大きくなっていく。
そしてスザクに導かれるままだった手の動きも、いつの間にかルルーシュ自ら動かすようになり、合わせて腰も淫らに揺れていた。

「ん、ん…ルル…やらし…っ」
「あっ、あ…っ、スザクっ…!」

息を合わせて、二人はすぐそこまで来ている絶頂を見ようとする。
久しぶりの甘い快楽に酔いしれ、次の瞬間、半分我を忘れて今まで以上に強く手を握り締めて同時に抜き上げた。
スザクだけでなく、ルルーシュの力も加わってその刺激は計り知れないものとなって襲い掛かった。

「ふっ……!」
「ひあぁ、っ……!」

びくんと身体を震わせて、二人はほとんど同時に達し、その手に精液を散らした。
しかし咄嗟にスザクは互いの制服を汚さないために二人分の精液を受け止めていた。
達することだけに集中していたルルーシュはその行動を見て我に返り、赤面して顔を背けた。

「わー……」

精液を受け止めたその手をスザクがゆっくりと開いて見ると、その中には精液同士がどろりと混ざり合い、
何とも卑猥な光景だった。
手中に収まりきれなかったその液体は、ゆっくりと垂れ、用具室の床に落ちていった。
埃っぽくて、黒い床に白い精液が目立つ。それを見たルルーシュはさらに赤面した。

「…戻らなきゃな」
「そうだね……」

情事後の甘い気だるさに身を任せている暇もなく、二人は溜息を吐いて離れた。
半分まで脱いでいた下着を穿き直し、スカートの形を整える。
スザクのお陰で服が汚れる事はほとんどなかったが、少し皺はついてしまったらしい。

「行くぞ、スザク」
「あ、うん…」

ルルーシュは己の身体を叱咤するようにその皺と埃をパンパンとはたくと、入り口のドアを開けてスザクを呼んだ。
入り込んできた光は眩しく、スザクは目を細めた。
そして、とことこと先に歩いてしまっているルルーシュの後姿を見た。
普段から少し上品な歩き方をする彼。背筋はぴんと伸びていて、決して下品に足を広げる蟹股では歩かない。

「スザク?」

付いて来ないスザクを不思議に思ったのか、くるりとルルーシュは振り向いた。
すると、ルルーシュの綺麗な黒髪が、風に流されさらさらと揺れた。
舞った髪の所為で視界が遮られたのか、ルルーシュはその髪を指でかき上げて耳にかけた。

どきっと胸が跳ねた。

「あ…、い、今行くよっ…」

その仕草は、本当の女の子以上に美しくて、綺麗で。
スザクは名前を呼ばれた数秒後、我に返って駆け足でルルーシュの元に向かった。






その後、生徒会室に戻ると、二人はミレイらに散々怒られた。
ルルーシュは反省している振りをしたが、もちろん逃げた理由は明かさなかった。
しかしこってり絞られた後、シャーリーに口紅が落ちている事を指摘され、密かに二人が顔を赤くしたのを見て、再びミレイが黒い笑みを浮かべたのは、また別の話。








>>13131リク「ツンデレルルとヘタレスザク」でした。明樹様ありがとうございました。
07.5.6 踏桜
07.7.7 加筆修正




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