独り占めして何が悪い
「ただいまぁ…」
誰もいない我が家に、つい癖でそう一人呟き、靴を脱いだ。
鞄を置きに二階の部屋に向かおうと思ったけど、今更ながらに気付く。
「あれ…?キッチン電気ついてるや。」
あの、口を開けば節約、節約なお母さんが切り忘れて出かける筈はない。
嫌な予感を感じつつ、玄関に舞い戻ると、私以外に一足の特徴的なめっだつスニーカー。
始めから気付けばよかったのだ。
あの幼なじみのド変態の女ったらしの顔だけが取り柄の口上手が、こんな日に家に来ないほうが可笑しいって…――――
くそ…不法侵入で訴えてやろうか。
…て
「あー!!!!!!!!!」
今日はバレンタイン前日。
明日渡すための―――もちろんアイツにもあげるけど―――その他諸々があるキッチンの明かりが着いていたことを今、思い出す。
あーもー最悪。
だってアイツのは…
今年は特別何だから…
独り占めして何が悪い
「こぉーら、ネズミぃ!!!!」
「お。やっときたか…たっく、待ち侘びたぞ。」
私の目の前で跡形もなく無くなったこの惨事に、比べればアンタの待ち侘びてくれた時間なんて屁でもない。
そう…屁でもなんでも
「な。な…ななな」
「どうかしたか?」
そう言って指に付いたそれを舐める口元がエロいのなんの――――
て、違ーう!!!!!!!!!!!
そういう問題じゃなくて
「な…なんで」
落ち着け…自分。
きっと私は夢を見てる。
多分、夢…
「もっと甘くない方が俺は好きなんだけどな。」
もう堪えられるかー!!!!!
「こらっ!!!馬鹿ネズミ!!!!ここにあった計18個のチョコレートをどこやったっ!!!!!!」
「食べた。」
暢気に抜かす泥棒ネズミの首を締め上げる。
「何処にいったのー!!!!」
「あー。苦しい…ギブギブ…――まぁ正確に言うと俺の胃の中?」
何かが切れた音がした。
「いっぺん死んでこーい!!!!!!!!」
「さぁネズミくん。詳しく話してもらおうか?君がやったことは、もうわかってるんだよ?逃げても無駄なんだよ?」
「―――おいコラ、こりゃ何プレイだ。」
「とっとと白状しな!!!!」
「話すも何もあったから食っただけだ。」
そう。何を隠そう、ネズミは一人で私の昨日作り後はラッピングするだけっの品々を独りでその胃に収めたというのだ。
「燃えそうなものがあったから火を付けてしまいました的ないいかたしないのー!!!!何で食べたのー!!!!」
「あのカツ丼はでないんですか?」
「こらぁ!!!!!!」
いっつもこんなだ。
私が真剣に怒ってるってのに
コイツは…
コイツは…笑うんだ。
そう、他では見たことの無いような優しい笑みを浮かべて――――
「何で食べたのー。ちゃんとネズミにもあげるからって言ったでしょー。」
ぷんぷんと頬を膨らませて腕を組んでいると、ネズミの腕がすっと伸びて来て私をすっぽり座っていたソファーに引き寄せた。
「なっ。ちょ。何急に…」
「ミユ補給中。」
「なっなな何馬鹿なこと言ってんの。離してー」
もぞもぞと抵抗して動くものの、固く結ばれた腕から逃げられる筈もなく―――
「――――るからだ。」
「へ?」
ボソッと呟かれた可愛いさは何処へやら、聞き返すとそっと耳元で返答返って来た。
「ミユが、他の奴にやるチョコなんて置いておくから悪いんだ」
そう言って耳を甘噛みする。
「うっわ…馬鹿ぁ!!!!止めなさいよ。あれは、みんな友チョコなんだから、あげたっていいじゃない。」
「離してー」とまた逃れようとするけど全くの無意味。
「嫌だ。」
一瞬心時めいてしまったのは何故だろうか。
もっと可愛い表現の仕方なら可愛いのに。
「あんたは俺のだけ作ればいいの。」
ねぇ。ネズミ。
あんたのせいで
明日みんなにあげる
チョコレート。
無くなっちゃったけど
それでもいいや。
だって、その中の一つ。
一つだけ甘さ控え目の
手の込んだ一つを
あなたはもう食べたんだから。
「――――馬鹿ねぇ。」
「あんたにはいわれなたくないな…っていうかアンタ余裕そうだけど、今の現状わかってんの?」
「へ?て、ちょっ…待てこのド変態!!!!!!!」
彼は私の
ただの幼なじみで
あって恋人。
だってまだ口にして
言ったことないもの。
「ミユ…あんたのことが」
「だめ。」
言ってしまわないで。
ずーっとこのままで。
彼は
幼なじみで
初恋の相手で
運命の相手だったりする
「俺は嫌なの――――好きだ。好きだ、ミユ。俺だけ見てろ。他の男と話すのも許さない。俺のそばを絶対離れるな。」
「―――…ばぁーか」
(2009.2.22)
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