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安堵


今日は生憎、雨だった。雷まで参加して、皮肉にも賑やかな夜だ。

今夜はまた冷え込むだろう。きっと多くがこの寒さで野垂れ死ぬ。


大きな岩を退かし、地下に―――住み慣れた我が家に続く階段を下りながらネズミはふと思う。




なんて、厄介なモノを拾ったのだろうと。



本を読めだ、部屋が寒いだ、毎日スープじゃ飽きるだ―――我が儘なお嬢様を拾ったもんだ。



そもそも、本当のお嬢様だったらこんな所にいる筈もないが、何故か彼女を見ていると飽きない。



我が儘な注文も何故か受け答えてしまう。



だから、今日の夕食はスープじゃない。


可笑しな話だ。


あんなに人を寄せ付けないようにしてきたと言うのに、簡単に俺のなかにのめり込んで来た。



生活の一部となっている。



いや、入らせる隙を与えたのも俺なのかも知れない。



なぁ、俺は今からでもアンタを手放すことができるだろうか?




ドアを開けると何時ものように明るい蛍光灯の明かりが差すかと思えば、部屋の中には底無しの漆黒の闇が広がっていた。




「ミユ?」




返事はない。
心の動機が速くなる。他人の―――ミユの姿が見えないだけで心が乱れているのだ。




「ミユ?」




もう一度呼んでみる。
きっとこの雷で停電してしまったのだろう。



「ネっ…ネズミ…――?」



消え入りそうな声で俺の名を呼ぶのは我が儘で強がりな彼女の声なのだろうか。


今まで聞いてきた明るい声とはまるで違う。



暗がりに彼女の姿を見つけて近寄れば、ベッドの上で小さく小刻みに奮えながら、手で耳を塞ぎ俺を見上げていた。



愛おしい。ふとそんなことを思う。




「ネズミ…」




暗がりの中で、真っ暗な地下でミユは一人泣いていた。




「どうした、ミユ?」




ガタガタ震えるミユは上手く喋れず口ではなく、視線で俺に何か訴えていた。




「…言わなきゃわからない。俺はアンタのママじゃないからな。」




地下へ雨の音が染み込む。外の雨の音に比べれば歌を歌っているかのように静かに静かに染み込んでくる。




「ミユ…?」




心配になって傍に屈み込み、彼女の頬に触れれば瞳から雫がポロリと落ちて頬を伝う。


ミユの瞳から落ちたその雫があまりにも綺麗で視線を奪われた。



その雫が頬を濡らす。
そのまま零れてしまうのはもったいなく感じ、唇で雫を受け止める。


ミユは恥ずかしそうに赤くなりながら瞳をギュット閉じた。




「どう…?落ち着いた?」




意地悪そうに笑って見せれば、口をパクパクさせながら真っ赤になって吹きこぼれそうなヤカンのようだ。




「何で泣いてる。」




問い掛けるとやっと放心状態から戻ってきたようで口を開いた。





「雨が…雷が…」




だが口を開いたもののそれを繰り返すばかりでなんのことかサッパリわからない。




「はぁ…。それじゃわからないだろ。何があった。何故泣いている。」




まるでミユになった気分だ。


何で?どうして?と聞くのは彼女の得意分野だからだ。




雷が一つ大きな音を立てた。雨とは違って地下の部屋に大きく轟く。




「っ…!!!」




声にならない叫びを上げてミユがビクッと跳ね上がり暗がりに遠ざかる。




彼女の腕を掴み抱き寄せた。



そのまま暗がりに行かせてしまったら二度と会えない気がしたから。




「ネズミぃ…」




俺の腕の中から漏れてきた愛しい声はあまりにも小さく、闇に飲まれて消えてしまいそうなくらいだった。




「…何、我が儘で強がりなアンタにも怖いものがあるんだ。」




嘲笑うような笑みを浮かべながらいえば、ミユは不満げに涙の溜まった瞳で俺を見上げる。




「――…そんな瞳で見つめるなよ。ただ、強がりで我が儘でどうしようもないお嬢様だったら、そろそろ道端に置いて行こうかとか、考えてたんだけど…やめといてやる。アンタにも怖いものがあったんだ…。まさか、雷だとはな…」




何故だか笑えてくる。



ミユと起こる出来事全てが新鮮だ。



飽きない。




「何よ――…。だって雷は…っ!!」




ニ発目



音と共に言葉を切って俺にしがみつく。




「雷の何処が怖いわけ?」
「何処も何もないわよ。いろいろと、あるの。」




本調子が戻ったのか舌を突き出す仕草を見せる。




「ありがと――…ネズミ。いっつも助けてもらってるや。ありがとう。」




ミユが俺の胸板に顔を押し付ける。




「仕方がないだろ、アンタが手間のかかるお嬢様なんだからさ。」




ミユの鼓動がこんなにも近くで聞こえる。それだけで俺は安心感をえる。




「―――それにしてもネズミ…。このシャツ、ベトベトしてて気持ち悪いよ。雨も雷も止まってきたし、着替えて。」




ミユが俺を見上げていう。




「だって、ネズミが風邪引いちゃう。」




心配してくれるのは嬉しいが、なんだか逃すのも勿体ない。




「嫌だね。アンタがまた怖がるといけないから今晩はずっと、こうしててやるよ。」
「ちょっ…ちょっとネズミ。」




ギュット抱きしめるとミユがまた顔を赤く染める。




「私も濡れちゃうじゃないっ!!」




反抗したミユに甘いキスを。



きっと今夜の二人なら雨に濡れた冷たさもすぐ温まる。







アンタが可愛いから悪いんだ

(2008.12.1)




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