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僕らの秘密


竹タカ竹



どんなに豆腐の知識を植え付けられても、毎日豆腐について語られても、豆腐を好きになることはなかったのに…

ごめん、兵助

好きになったのが豆腐じゃなくて



僕らの秘密




「豆腐はな、骨や歯の補強をはじめ、ストレスの緩和、記憶力増進などといった素晴らしい効能を兼ね備えた食材なんだ…」


今日も飽きることなく豆腐語りを始めた俺の親友に渡り廊下を歩きながら永遠と豆腐について聞かされていた

もういい加減こちらが聞き飽きた

俺は「はい、はい」と聞き流しながら今日のランチは何だろうと頭の隅で考える

願わくば豆腐料理でないことを祈るだけだ

ランチにまで豆腐料理が出たもんならさらに豆腐語りの熱をヒートアップさせるようなもの


「あ…!」


途中で豆腐語りを中断して兵助が足を止めた

どうしたんだ?と俺も立ち止まって兵助に振り返る

兵助は校庭を見つめていて、視線の先には紫色の制服を着た一段と目立つ金髪頭の彼を捉らえていた


「タカ丸さん、またドジしてる…」


兵助はふっと笑って目を細めた

いつもの兵助は無表情だからこんな表情するんだなと親友の思わぬ一面を知り内心驚いていた

そして、 兵助が再び歩幅を進めて、「なぁ…」と口を開いた

豆腐語りも大概にしろよなぁと俺の思考はまた脳の隅に向かおうとした


「タカ丸さんって、飄々としてそうだけど本当は努力家なんだよな…」

「へぇ…」


そうなんだ、と一度俺の思考はタカ丸さんに向かったがすぐに隅に追いやられた

豆腐語りから解放してくれたタカ丸さんに感謝だな…この時はそれだけだった



生物委員会の途中で孫兵の毒虫が逃げ出したので最上級生の俺は裏山の方を見に行くことにした

すると、林の中にたまたま金髪頭を見掛けた

金髪頭なんて目立つ髪型をしてるのはあの人くらいだろう

こんな日の暮れる時間に何をしているんだ?

「タカま…」と声を掛けようとしたが、彼の真剣な表情と汗だくな姿に声を掛けるのを止めた

どうやら、手裏剣の練習をしているらしい

こんな所で、一人で特訓?

実技の試験が近いのだろうか

しばし彼の練習姿を見ていると、彼の足元に孫兵が逃がしたであろう毒虫がいた


「タカ丸さん!」

「え?」


俺は思わず叫んで木から降りるとタカ丸さんを抱えて毒虫から遠退いた

安全な所までタカ丸さんを移動させて安堵の息を漏らした


「危なかった…」

「竹谷君?」

「ああ、タカ丸さんの足元に孫兵が逃がした毒虫がいて、危うくタカ丸さんと接触しそうなものでしたから」


と必死にタカ丸さんに状況を説明した


「竹谷君、あのね…?」

「はい」

「重くない?」

「え?あ、す、すみません!」


事もあろうにタカ丸さんを抱き上げたままの状態で顔が異常に近いことに気が付いた

ようやく俺から解放されたタカ丸さんは何事もなかったように落ち着いて「ありがとう」と言葉を発した

俺は「いえ…」としか言えず、何とも気まずい雰囲気が漂っていた

数秒も経っていないのに俺はこの空気に耐え切れなくなった


「タカ丸さんは一人で特訓ですか?」

「うん…まぁね」


会話が終わってしまった

更に気まずい


「僕は忍術が下手だから…」


と眉を潜めて笑っていた

そうか、タカ丸さんは編入生だからこうして忍術の練習をしていたんだ、兵助の言葉通りの人だなと納得した


「ここで練習してたことは誰にも言わないでね」


どうしてですかと聞いたら、「頑張ってるところは人に見られたくないでしょ?」と笑っていた


俺は「わかりました」と答えてタカ丸さんを残して毒虫の捕獲作業に戻ることにした

ようやく毒虫を捕獲して学園に戻る途中、あの場所を通り掛かったら暗闇に鮮やかな色が溶け込んでいた

まだ、いたのか…

実は、町育ちの元髪結いの編入生に周囲の中であまり良くは思ってない奴らがいる

それは、上級生だったり同学年だったり様々であるが、ただでさえ6年生の年齢で編入するという珍しい事例にあの金髪頭の外見とあの性格

忍ぶ気があるのかとか忍びを舐めているとか親が穴丑だからって調子づいてるとか

終いにはくの一達からも人気があるから嫉妬して妙な噂を立てる輩も出ていた

けれど、あの人はきっと中途半端な気持ちで忍者を目指してないのだとこの一件でそう思った


「なぁ、昨日タカ丸さんがさ…」


と兵助がタカ丸さんの話題を口にした

豆腐語りの時とは違って俺の意識はタカ丸さんの話題に興味を示した

火薬委員会で火薬をぶちまけて煤だらけになった話とか想像しただけで笑えてしまった

他にも綾部の蛸壷に落ちる頻度が伊作先輩に次いで高いとか、1年は組と異様に仲が良く馴染み過ぎているだとかタカ丸さんの話題は豆腐の話題と同じくらい尽きなかった

けれど、一度も俺はつまらないとか退屈だとか飽きを感じることはなかった


「そうだ、そういえば…」


途中まで話して思い出した

『誰にも言わないでね』

これはタカ丸さんと俺と二人の秘密

親友の兵助であろうとこのことは言ってはならない

正直、兵助には言いたくなかった


「ああ、何でもない」

「?そうか」


兵助は何も詮索しようとはしなかった

今日も覗いてみようか

俺は生物委員会が終わってからあの裏山の林へ足を運んだ

いた、いた

今日は何の練習だろう

手裏剣を投げる様子はないし…ってアレ?服を脱ぎ出したぞ

何だか盗み見見ているようで罪悪感を抱き始め、何を焦ったのか俺は足を滑らせてドスンと落っこちてしまった


「いたたた…」

「あれ?竹谷君?」


し、しまった


「また毒虫が逃げ出したの?」

「え…ああ、そうなんです」

「竹谷君も大変だねぇ」

「あはは…」と苦笑するしかなかった

すると、タカ丸さんの手が俺に向かって伸ばされた

俺は身動き取れずに固まるしか出来なかった


「はい、枯れ葉が頭についてたよ」

「あ、どうも…」

「それにしても、竹谷君!」

「は、はい!」


急に目の色が変わって強い口調で言われたものだから俺は背筋をピンと張った


「それは髪なの!?」

「は、い?」

「どう考えても髪に見えない、ちょっと後ろ向いて!」


タカ丸さんの勢いに負けて背を向けた

タカ丸さんはいつも持ち歩いてるのか髪結い道具を取り出して俺の髪を結い始めた


「もう、ちゃんと手入れはしてるの?トリートメントしなきゃダメだよ」


鳥と面と?何の話をしてるのかさっぱりだが、俺の髪は土井先生よりも酷いらしい

それから、毎日互いの委員会が終わってからここで会うようになった

俺がタカ丸さんの忍術の練習に付き合って、その後に髪の手入れをしてもらう、それが日常になりつつあった


「竹谷、お前最近タカ丸さんと会ってるのか?」

「え?」


俺はドキリとして兵助に後ろめたい感情を抱いた


「最近、お前の髪まともになってきたから」


まともとは失礼な!と若干ショックに思いながら「たまに髪結いしてもらってるんだ」と話した

兵助は「そうか」と小さく呟いたが、以前よりもタカ丸さんの話題は口にしなくなった


「竹谷君、僕が渡したトリートメントちゃんと使ってる?」

「え…」

「前みたいにボサボサに戻って来てる」


それは…、兵助に勘づかれてから以前タカ丸さんからもらったトリートメントを使うのを辞めた

それに、もし俺の髪がボサボサ頭じゃなくなったら…


「どうして?」とタカ丸さんは小首を傾けて膝をついて俺を見上げた

俺は思わず赤面して後ろずさりした

ボサボサ頭じゃなくなったらもう貴方との接点がなくなってしまうから…


「忘れちゃって…」


本音を言える訳がない


言ってしまったらこの関係さえも終わってしまうような気がして、怖かった


「本当に?」


何だかこの人には全てを見透かされているようで、俺の嘘もバレているのではないかと唾を飲んだ


「本当…じゃないです、けど」

「けど?」

「俺の髪が綺麗になっても…その、髪結いしてくれますか?」

「もちろん」

「これからもここに来て良い…ですか?」

「うーん」


え?タカ丸さんは言葉を濁らせて悩んでしまった

やっぱり迷惑だったのだろうか


「そろそろ、先に進んでも良い頃かな?」


え?

と考える暇なく、タカ丸さんの顔が近づいて来て、俺は思わず目を瞑ってしまった

チュッと小さな音を立てて、額に熱を持った


「髪が綺麗になったら今度はここにしてあげる」


と俺の柔らかい部分に人差し指を当ててタカ丸さんは悪戯っぽく笑った






くくタカ前提のはずがいつの間にかタカ竹になってしまいました…





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