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壊れかけたらまたおいで


くくタカ←綾



5年生の実技実習が始まって早三日

早くも禁断症状が出て来てしまったらしい


「ご馳走様…」

「タカ丸さん、また食欲ないんですか?」


僕の隣りで心配そうに声を掛けてくれた同じ学年の綾部君は、さりげなく僕の盆と取り返っこしてくれた


「いつもすまないねぇ…」

「本当ですよ」と素っ気ない返事をして黙々と僕の残飯を食べてくれている綾部君は実は面倒見が良いのを僕はちゃんと知っている


「夜はちゃんと眠れているんですか?」

「え?うん、まぁまぁ眠れてるよ」

「そうですか」と綾部君は簡単に返事をして再び黙々と食べ始めた

そして、それ以上は何も追求してこなかった

本当は気付いていただろうに…


『斎藤』


僕は勢い良く呼ばれた声に振り返った


「おう、お前も夜間に鍛練でも始めたのか?目の下に隈が出来てるぞ?」

「潮江君…」


僕の期待した人ではなくて落胆した


「ん、どうした?」

「ああ、僕も潮江君を見習って鍛練始めようかなぁ…」

「そうか!もし鍛練する時は付き合ってやるぞ、ギンギンに」

「うん…、その時はお願いするよ」


綾部君は僕らの会話を気にも留めない様子で僕の夕食を見事に間食してくれていた


──夜が更けて自室に布団を準備する

もともと二人部屋である自室は一人で使用するには広々としていて、何だか落ち着かない

僕は心を落ち着かせる為に机の引き出しから鋏と櫛を取り出して手入れを始めた


「タカ丸さんいらっしゃいますか?」


襖の向こうの人影に「どうぞ」と答えると、そこにはこんな時間なのに忍装束姿の綾部君が立っていた


「髪を結ってもらえませんか?」


「勿論」と制服が泥だらけの依頼主に笑顔で答えた

こんな時間まで蛸壷を掘っていたなんてなかなか寝付けなかったのかな?なんて僕もこれから髪結い道具の手入れをしようとしていたのだから人の事は言えないけれど

彼の乱れた髪を解いて、丁寧に櫛で梳いていく


「綾部君の髪は綺麗だね」

「どちらの方が綺麗ですか?」

「え?」

「久々知先輩の髪と私の髪どちらの方が綺麗ですか?」


胸にドキリと何かが突き刺さって、思わず櫛を止めてしまった


「両方とも…かな」

「そうですか、一つ聞いて良いですか?」

「うん」

「貴方にそんな辛い顔をさせているのは誰ですか?」

「…」


言葉を詰まらせた


「貴方にそんな辛い想いをさせてるのは誰ですか?」

「…」


辛くないよ、辛くなんかないんだ


「貴方の強がりはすぐわかります」

「辛くないよ?僕が弱いだけ」

「私は…」


辛いんです

貴方が強がってる姿を見るのが痛々しくて、壊したくなる

一度壊れたら簡単に元通りには戻らない

戻らないのなら別の代わりを探すしかない

私があの人の代わりになります

代替でも良い、決して貴方にそんな表情はさせない

背景と同化しそうなくらい無表情な今の貴方は忍者に向いているかもしれないくらい虚しい表情をしている


「ありがとう、綾部君。僕は大丈夫だよ」


脆く弱いものこそ意外と長く持続するものだ

しかし、崩れ落ちる時は実に呆気なく単調で美しい


「斎藤っ」


襖がバンッと開いたのと同時にタカ丸さんは櫛を落とした


「どう、して…?」

「…俺は忍者、失格なようだ」


実習中である筈の久々知先輩はハァ、ハァと息を切らして口許を隠していた布を顎下にずらした


「はは…、急に帰ってくるから…、もうびっくりしちゃったよ」


私は何事もなかったように用の済んだ部屋から出て行った

きっと二人は私の存在にすら気付いていない、お互いしか見えていないのだ

お役御免な私はもう用済みなのだから

それに、今の貴方には興味ない

儚げで華奢で脆い貴方はもうここには居ないのだから

壊れかけた心の隙間を埋めるのも修復するのも私ではダメだった

壊すのが専門だから




壊れかけたらまたおいで






綾タカ好きな方本当スミマセン
綾部ごめん








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