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今年もよろしく


くくタカくく


五年長屋の自室の前に何者かの気配がして目を醒ました

忍者を目指すべく者として、どんな時も常に周囲に気を張ってなければならない

それが、就寝中であろうとも

最も人間が無防備なのが眠ってる時であるからこそ気を許してはならない

何者かが襖に手を掛けた

そうして、「久々知君」と小声で名前を呼ばれた

「ど、どうしたんですか、こんな夜中に?」


布団から身を起こして来訪者を見上げた


「あけましておめでとうございます」

「…あ、あけましておめでとうございます」


タカ丸さんにつられて新年の挨拶を交わす

これは夢なのか、端又現実なのか

もし夢だったら初夢からタカ丸さんが出てくるなんて縁起が良い

現実だとしても今年初めて言葉を交わすのも顔を合わすのもタカ丸さんが初めてならこんなに嬉しいことはない


「ねぇ、久々知君。姫始めしない?」

「ひめは…え、えええぇ!?」


新年早々そんな過激な!

て、ていうか、まだ心の準備が…

僕達まだそこまでの関係じゃないじゃないですか

俺があたふたしているとタカ丸さんは俺の上に跨がった状態になって俺は思わず目を閉じた


((た、タカ丸さんっ…!))

「うん、なぁに?」

「あ、あれ?」


目を開けると天井が見える

あれ、身体も軽いし

タカ丸さんは?


「久々知君、大丈夫?」

「あ…、あれ?タカ丸さん?」

「あけましておめでとう」

「…あ、あけましておめでとうございます」


にっこりとタカ丸さんが優しく微笑んで再び新年の挨拶を交わす

どうやら先程の前述の事は夢だったようで、新年早々疚しい夢を見てしまう自分が不埒に思え一人悶々としていた

しかし、後述したことも今現在目の前にタカ丸さんがいるという事は新年早々タカ丸さんに会えたという事だ


「どうしたんですか?」

「うん、今から出掛けない?」

「え?良いですよ」


とは言ったものの、今からというのはまだ朝日も出てない丑の上刻を差している

急いで寝間着から普段着に着替えてタカ丸さんと夜道を歩き出した

一体どこに行くんだろうか

真冬の丑の上刻はやはり身震いが起きる程の冷たい夜風が肌を纏う


「タカ丸さん、寒いですか?」

「え?あ、うん、ちょっとだけ」

「こうすれば…寒くないですよね」

「あ、うん!」


こんな時間に人気があるはずはないし、俺はここぞとばかりにタカ丸さんの手を取った


「久々知君の手、温かいね」

「え?そうですか?」

「うん」

「きっと豆腐のおかげですね」

「とうふ?」

「ええ!豆腐にはイソフラボンというのが入っていて新陳代謝を促進する効果があるんですよ!すごいですよね!豆腐にこんな力があるなんて!」

「う、うん……、そうだね……、あ!久々知君、もうすぐ着くよ!」

「え?着くってどこに」


タカ丸さんは俺の手をぱっと離して目的地へ走って行ってしまった

あーあ、もっと豆腐のことを語りたかったなぁ


「久々知くーん、早く、早くぅ」


タカ丸さんに急かされて階段を駆け登る


「ここって…、神社ですか?」

「うん!久々知君と初詣に来たかったんだ」

「そうだったんですか」

「あと…今年最初に会うのが久々知君が良かったから」

「僕もです」


二人して顔を見合わせながら笑った

照れ臭くなって「早くお願いしましょう」と境内へ足を進めた


チャリン

パンッ、パンッ


「タカ丸さんは何をお願いしたんですか?」

「忍術と髪結いの腕が上達しますようにって。久々知君は?」

「えっ…、一流の忍者になれますようにって」

「久々知君らしいね」



帰り道、朝日が昇り始めたせいか周りがほんのりと明かりを帯びはじめていた


「実は…もう一つお願いしたんだ」

「え?」

「内緒だけどね」

「僕も、です」



辺りはすっかり明るくなってしまったけど、帰りもタカ丸さんの手を取って学園に戻った



今年もよろしく





A HAPPY NEW YEAR






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