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現照し編4




「圭一くんは、こんなことをおもったことない? ……この幸せがいつまで続くんだろう、もしかしたら、明日には終わってしまうんじゃないかって」

 ……記憶にはないが、まあ一回くらいはあるだろう。
「うーん、まあ、あると思うぜ」

 レナは、頷くとちょっと微笑んで、言葉を続ける。
「そんなことをね、よく考えちゃうんだ。……今は、魅ぃちゃんや梨花ちゃん…みんながいて幸せで、夏になるときっともっと楽しくなるんだろうけど、これだけ幸せだと、ちょっぴり怖くって。この幸せはいつか終わるもの。それはわかってるけど、でも、それが明日じゃないといいなって」

「おいおい、そんな暗く考えんなよ。何も起きるわけないだろ」

 その言葉は、レナを少なからず不快にさせたのだろう。……口調にちょっと拗ねたような響きを混じらせる。

「じゃあ圭一くんは、梨花ちゃんの事件を予測できた?あれだって、少し間違えれば、誰か死んでたかもしれない。そうしたら、今の幸せはきっとなかったんだよ」

「そりゃあな、でも、無事だったろ?あんだけの大事件を乗り切ったんだ。安心しろよ。楽しまなきゃ損だぜ」

「……うん、圭一くんは楽しそうでいいね。でも大丈夫、言われるまでもないよ。私は圭一くんよりずっとずーっと、毎日楽しんでる。一番今を楽しんでるのは私」

「そっか」
 まあそれならいいよな。
レナは確かに誰よりも、日々を楽しんでる。俺が言うべきことじゃなかったかもしれない。
 俺はそう安心したのだが、……レナは俺の表情を見て、ちょっとだけ、言い足りなさそうに、言葉を重ねる。

「うん、……ありがと。……でもね、圭一くん、これだけは覚えておいて」

「……何をだよ?」

「幸せはいつか突然なくなるもの、それが、生別か死別かはわからないけど、いつか必ず来る。だからね、私たちは精一杯に今を楽しまなきゃいけないの…その時に後悔しないように」

 顔は笑っていたものの、レナの声音はどこか寂しそうで、鈍感と言われてる俺にだって、レナが頷いてほしがってることがわかった。
 だから俺は、レナの願う通りに「そうだな、楽しまないといけないよな」と頷いて、笑い掛け……なぜか強い後悔を覚える。
 ……レナは、さっきまでと同じ寂しそうな笑顔を浮かべたままで……、
それを見てやっと、俺の選んだその選択が間違っていたことを悟る。
 ……もしかしたら、レナはちがう答えが欲しかったのかもしれない。……言い様のない焦燥が胸を覆う。

「私の悩みはそれだけ……、はうぅ、ごめんね、ちょっと暗くしちゃった。宝探しして帰ろ?」

「あ、ああ、そうだぜレナ、夏になれば、旅行だって行くし、もっともっと楽しくなるんだ。 そしたらそんなことも考えなくってすむ」「うん!楽しみだね、夏休み!!」






「くっくっくっく! いやいや、実に愉快だったよ。今日のプールは、特に何も予定してなかったんで、たまには静かにお水遊びができるかな〜なんて思ってたら、くっくっく! やっぱりこのメンバーじゃ、何も起こらないって方が不思議だもんねぇ!」

「いーや、それだけは断じてありえねぇ!何も予定してなかったら、あんな恥ずかしい白鳥のパンツをわざわざ持ってくるわけねーだろ!! 何か口実をつけて俺に履かせようと企んでいたに違いねぇ!!」
 俺がそう断言すると、レナがケラケラと笑う。
「あはははは、でもとっても楽しい一日だったから、レナは大満足だったかな、かな!」
「そうですわね!その点につきましては同感でございましてよ!」

 夏休みに入ると、俺たちはまるですべての悩みから解き放たれたかのように、心が浮わついた。
 特に変わったのは梨花ちゃんで、今までの梨花ちゃんからは考えられないほど、夏休みの予定をたくさん建てたがった。
 旅行は言うに及ばず、花火に、肝だめし、スイカ割りまで!?砂浜がないから、沢でやるらしい!!他にもたくさんたくさん。
 俺たちはそのあまりの変わりように少々苦笑しながらも、その変化を喜び、夏休みの到来を指折り数えて待ちながら、今こうして、その一歩を踏み出したところだった。
 俺たちはその始まりとなるプールに、はしゃぎにはしゃいで、梨花ちゃんなんかは、興宮から雛見沢に戻る長い長い上り坂でさえも疲れを見せず、自転車を立ち漕ぎしながら、俺たちを追い抜き、沙都子と二人で競争を始める。
「うわったった! り、梨ぃ花ぁぁ!!」
「みー!」
 へへっ、こんなに楽しい日を、ただで終わらせる言われはないよな!!
 俺と魅音も後を追おうとしたものの。
 レナが「道路でふざけちゃ駄目! 梨花ちゃん沙都子ちゃん、危ないよー!」とちょっと、お小言を言ったから、しぶしぶと自転車のペースを落とし、魅音と苦笑し合う。 今は車の往来のない時間帯で、皆で競争するのは特に問題なくて、正直心配しすぎだ。
 ……この瞬間まで、俺たちの日常は輝いていて、楽しくて、夢に溢れたものだったから、俺はいつの間にか、いつかのレナの言葉を忘れていたのだと思う。
 ……ただレナだけは、その感覚に常に敏感で、気にしていたから、レナは無意識の内に、不幸を退けるその自身の最大限の努力ができた。でも俺たちがそれをしなかったから……。
 今までの楽しかった日常はあっさりと終わりを告げる。
…………それは、ホントウに一瞬のこと。
 梨花ちゃんが、自転車に乗ったまま坂の頂上に消え、沙都子の姿がそれに続いて消え、……見えなくなって……ほんの数瞬ののち。
パァーン!!
 という車のクラクションと急なブレーキ音、タイヤの擦れる音!ついで、沙都子のつんざくような悲鳴が聞こえ、…………最後にカシャッン……と軽い音が聞こえた。
 それは坂の向こうで起きたから、まだ見えなかったものの、俺たちを茫然とさせるには充分な音で……。
 最初に我に返った魅音が号令を掛ける。
「急ぐよ!!多分、事故!」
 俺たちは頷く間も惜しんで、ペダルをぶん回し、坂の頂上に向け、物凄い速さで自転車を疾走させる。カシカシャッジャアアァアアアァアーっ!
 頂上はあっという間に近づき、視界が開け、その姿を露にする。

 まず、視界に映ったのは、大きな貨物トラック!!それが回避のためか斜めに向きを変え、頂上付近の道路の半ばを埋めるように停まり。 そのトラックと、ガードレールと、落石防止用のセメントで固められた崖の間に、一台の倒れた自転車と、梨花ちゃんが横たわっていた。視界の中で、沙都子が自転車を放り捨て駆け寄っていくのが見える。
遅れて倒れる沙都子の自転車。
俺たちも自転車を転げ降り、けつまづきそうになりながら、倒れた梨花ちゃんの元に駆け寄る。







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あきゅろす。
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