[携帯モード] [URL送信]
現照し編2




「レナの拳って、どうしてそんなに速いんだ?」
「え?」
 ……レナは、まじまじと俺の瞳を見つめ、やがて弱ったように問い返す。

「私のこぶし……?」

「レナのパンチは神速で威力もあるだろ?すげえなと思ってさ」

「うーん」
 レナは、弱ったように俺の額から手のひらを離し、代わりにそーっと顔を近づける。夕焼けが消え、視界がレナ一色になり、ちょっと俺が首を上にあげれば、キスだってできる間合い……なんか照れるな。
 そんな近い距離で、レナは困ったように聞く。
「はうぅ……、それって……男の子の圭一くんより強いってことなのかな?」
「まあそうだな、素手なら敵うか怪しい」
「……私って怖いんだねー」
 その口ぶりには、なんだか傷ついてるような響きがあって、俺はあわてて弁解する。
「あ、いや、そういう意味じゃないんだ。そのなんていうか」
「じゃあ私がプロレスラーみたいってこと?」「ちがうっ!きょっ曲解すんな、悪い意味じゃないんだ。悪い意味じゃ」
 俺が、あたふたした瞬間、レナは「あははっ」って弾けるように笑い、表情が離れ。悪戯っぽい瞳が夕日に煌めく。
「なーんて、ねっ。圭一くんは、いっつもそうだから、レナには効かないよぅ」

…………はあ?
「……なんだよ。ったく、驚かせんなよなー。また変なこと言ったのかと思ったぜ」

「くすくす、ごめんね。でも圭一くんだっていけないかな。かな。パンチ力誉められて、喜ぶ子は少ないと思うもん。男の子以上なんて…やっぱり」

「でも、レナはその少数派だろ?」
「うーん……。それで、どうして、私のパンチがあんなに速いか、知りたいんだったよね?」

「……教えてくれるのか」
「うんっ!」
 レナの明るい表情とは裏腹に、俺のその質問に対するレナの返答は、とても不思議なものだった。

「……私が、今、幸せだから」

「は?」

「うん。だから、ね?幸せだから、……。……だから、パンチだって速くなるんだよ。もっと楽しくなりたいーってコブシさんが、動くの、ヒューズがとんだみたいになって、ビューって!きっと火事場の力とかそーゆーのなんだよ?だよ。えへへ、変かな?かなぁ」

 ……確かに変だし、冗談で言ってるのかとも思ったが……、明るい割りに、どこか寂しそうだったから ……俺は茶化すこともできず、問い返す。
「じゃあ、レナは今、幸せなんだな?」
「うん、幸せ……今だけじゃないよ。これから先も、ずっとずっーと」
 圭一くんもそうだよね?………そう明るく呟いたレナの表情は、……夕焼けの中で悪戯っぽく輝き。
 ……でもそれなのにどこか寂しそうで、何だか不安を覚える。
……おい、レナ。幸せなら、もっと楽しそうに笑えよ。
 ……俺がそう心の中で呟くと、まるでそれに答えるように、レナは微笑みを消し、……そろそろ帰ろ?……と、そう呟いた。




 なんとなく不安に刈られた俺は、次の日、魅音に昨日のレナの様子を打ち明けることにする。
ちなみにレナは今日は休みだ。

 ……魅音、魅音は…と、教室の中を見回すと、魅音は窓際で、羽入と楽しげにお喋りしていた。話題は、部活で如何に勝つか。
 羽入が魅音をおだてて、話を引き出しているのだ。
羽入は一ヶ月くらい前に転校してきたばかりで、一緒にあの6月の事件を戦った仲間でもある。
 ……俺が近づくと二人は会話をやめ、俺の話に耳を傾けてくれる。

 しばらくして、俺の話が終わると、魅音は開け放した窓の窓枠に腰掛け、あっけらかんと答える。

「そりゃー、圭ちゃんの考えすぎでしょ、レナが幸せじゃないー!なんて、どうしたら言えるわけよ」

「いや、まあ。なんていうか、レナのやつ、ちょっと寂しそうだったから……」

「圭ちゃんが、なんか傷つけるようなこと言ったとか?」
 ……一瞬言葉に詰まったが、あの表情は、そういうやつじゃなかった。それだけは言える。俺が何か言ったからじゃない!
 だから、俺は魅音にちょっと強めに言い返す。
「レナにはなんか悩みがあるんじゃないか。ほら梨花ちゃんだって隠してただろ?アレと同じだ」
「まあ確かに、梨花ちゃんのは言ってくれるまで、気づかなかったけど……レナでしょ?いっつも一番楽しそうじゃん」
 魅音は窓枠に腰掛けたまま、あれこれ思いを廻らせて、やがて首をふる。

「やっぱ、あたしは信じらんないけどね、レナさんにゃー悩みは似合わないっと」

「だけど、悩んでるかもしんないだろ」

「まあそりゃそうだけどさ……あっ」
俺がふて腐れたように言うと、水掛け論になることを悟った魅音は矛先を羽入に替える。
「どお?レナには悩みあると思う?」

「僕も言っていいのですか?」「うん言っちゃって」「あうっ」
 羽入は聞かれたのが嬉しいのか、軽く笑顔を溢して、あうあう考えた後、此方に振り向く。

「じゃあ圭一、圭一がもう一度質問してほしいのです」
「も……もう一度聞くのか?」
「はいなのです」
 何の意図があるかはわからないが、まあいいや。
魅音が首を捻るのを見つつ、俺は気負いなく聞く。
「羽入はどう思ってるんだ?レナに悩みあると思うか?」

 羽入は気弱そうな顔で聞き終え、あうあう頷くと突然豹変する!
「ぶぶーっ!!!!レナには大きな悩みも小さな悩みもないのです!その上、恋の悩みもない!大ハズレなのです」
「うおっ!?」

 あまりにばっさり全否定されたものだから、何故か大して怒りが湧かない。むしろ驚く。質問させて、全否定って……。
 ……が、魅音がニヤニヤこちらを見てるのだけは気にくわない。これでレナに悩みなしが二人か……。
 ……と、今度はなぜか、羽入が矛先を魅音に向ける。
「あうあうぅ……次は魅音が僕に質問してくださいです。い、今の質問をお願いしますです……」
 羽入はまた泣きそうな顔、気弱そうな声で魅音を誘う……、でもって尋ねると、また全否定されるのか?俺みたいに。
 うおお、なんかそれ嫌だな。
 なんというか、置いてあるバナナに足をのっける気分だ。それも周りに囃し立てられながら、
 転ぶのは目に見えてるのに、いや、むしろ転ばなくても、転ばなきゃいけないように、周りが仕向けるあの感覚。
 羽入は手ぐすねをひいて、魅音を全否定しようと待ち構え、質問してくださいですを幾度も幾度も繰り返す。
 魅音もちょっと怖がって、恐る恐る逃げをうつ。
「質問たって今、悩みないって言ったよね。レナに悩みなんてあるわけないって」
「い、言いましたのです。でも質問してくださいです」
「き、聞く意味ないよね。だっておじさんも、悩みないって言ってるから、同じでしょ?仲間だよ!」
「でも質問してほしいのです」
「き、聞きたくないなぁ」「あうあう圭一はそれでも聞いたのです……」「そうだぜ、俺は聞いた!」
魅音は迷ったあげく、息を吸って、身体をひねって、ストレッチをし……「よし、聞く」と覚悟を決め、羽入にたずねる。

「レナには悩みなんかないとおもうけど、どう?」
「ぶぶーっ、魅音もハズレなのです。二人ともハズレ!友達失格なのです」

 案の定羽入は全否定をし、ぶちぶちっと、魅音の笑顔がひきつり、羽入に掴み掛かる「ほ〜失格ね。あんたは、親友のおじさんより、レナのこと知ってるわけー?」ガシッ
「ひあああぁ、僕はもっと見てきてるのです〜、ぼ暴力反対〜親友なら内容で勝負してみろなのですっ」ジタバタジタバター、こちょこちょ「あうっ?」わきわき「くっくっく、笑い死にさせちゃうよー」「あっははは、うひゃひゃ」

 ……まあ、今のは羽入が悪いよな。悩みがないのに、魅音の否定するのもわからない。 ……こうなったら、直接聞いた方が早いか。と、その時、急に後ろから沙都子の声が聞こえる。
「圭一さん、羽入さん、魅音さんちょっと梨花からお話があるそうですの!!集まってくださいませ〜!」







[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!