小咄
人とずれてる?
それを知ったのは、初めて二人で買い物(個人的にはデートのつもりだ)に行った時だった。
「こっこれ、きれい…」
「これ、も。」
「あっ。あっちも!」
そういって雑貨屋をウロチョロとする俺の相棒。
女性向けの可愛らしいものが揃っているその店で、言わずもがな居心地の悪さを感じていたのは俺だけだったようだ。
きれい
果てなくその単語を繰り返す彼。
意外。
それはそうだろう。俺達は甲子園を目指す高校球児なのだ。
きれいなもの
なんて、一番かけ離れたものだ。
また別の時、二人で街を歩いていると目の前を
艶やかな黒髪をたなびかせて颯爽と歩く女性が通り過ぎた。
そりゃ一般的な男子高校生が目を取られるのは、ある意味正常だ。
だがどうだろう。
こいつの場合、何か、視点が違う気がする。
本来なら、性的な意味のあこがれをもつと思われるが
三橋は違うのだ。
ひたすらに、きれいなものを愛でていたい。
その一心なのだ。
「きれいなものが好きなの?」
正直な問いかけに、正直な答えがかえってくる。
「う…ん。へっへん、かな?」
「いや、変ではないけど…まぁ。うん。」
そんな少し濁された答えだったが、三橋はそんな俺の声も聞こえていないように、きれいっと呟くとフラフラと俺の元を離れていた。
さて、どうしたものか。
三橋に片思いをしている俺としては、これが目下の問題である。
自分をきれいなんて、頭が湧いたって思わないだろう。
ちなみに、俺は三橋をきれいと思ってしまうあたり、いろいろ末期だ。
もちろん場合によるが。
こんな感じで思い悩んでいた(水谷は言った「阿部、それって思い悩んでるって言うの?」どういう意味だ)
だが、この悩みに対する三橋の返答は、とてもあっさりと、尚且つ意味のわからないものだった。
「三橋は、俺のこと嫌いだろ?きれいじゃないから」
その問に、キョトンっと首をかしげる三橋。
まぁ、なんていうか、あれだ。かわいい。
「阿部くんっは、きれいだっ、よ!」
にこにこ。効果音が聞こえてきそうなくらいの笑顔だ。
…理解不能。
これはきっと俺だけではないだろう。
泉曰く「阿部がきれい?三橋熱あったんじゃないのか?」
ごもっともな返答に、だよなっと呟いた。
結局、三橋の返答の本意が分らぬまま、なんだかんだで付き合い始めた俺達。
(「三橋、すきだ!付き合ってくれ。」
「俺も、あべくんすき!」
どこの小学生だ。)
未だ変わらぬ三橋の嗜好。
だがまぁ
今三橋と愛し合っている現状に満足としている俺としては、正直もうどうでもいい。
最終結論。
好みと恋愛が比例するわけではない。
そんなところだ。
(「阿部くんの構えてる姿、は、すごくきれいだ。」
三橋の言葉に阿部が不在の部室の中の意見は一致した。
「三橋のきれいって、わからない。」
恋は盲目。限度を知れ!)
おわれ!
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