近過ぎる、残酷 「このトラップはすごいなぁ」 顔だけ少し向き直り、ねっと眼だけで同意を求めて、岬はまた直ぐに視線を画面に戻した。 二人の時間の習慣のDVD観賞会。 今日も勉強熱心な岬はプレミアリーグに夢中だ。 一緒に参加していた俺は今はなにも言えずただ岬を見つめる。 先程、垣間見た岬の目に映る焦躁。 ただ、何気ない会話だった気がする。多分フリーキックとかの話から筋肉の話。どの球種だと足に負荷がかかるか…その時に一瞬、見せた焦りの瞳。 岬のプレーに、気迫に、今までの怪我に、何か感じるものはあった。多分俺が特別だからではなく、他にも気付いている奴はいるだろう。だからと言って、特別俺達が岬に配慮する事はなかった、プレーにおいても、態度に置いても。勿論、それは岬に負けない気迫で臨んでいる自負があり、怪我はどの選手にも付き纏うものだったから。 岬自身もそれを望むだろうと今でも思う。 しかし、あの瞳が見せた色は想像以上で。俺が思っている以上の深刻さをはらんでいると理解するには充分だった。 だからと言って何が言える。 どうすれば岬は受け入れる。 多分、答えはない。 それは選手としてのプライドで、男としてのプライドだ。 もしも、俺が女でサッカーも知らずこいつの側にいるだけなら、こいつはもしかしたら弱い部分を吐き出せたかもしれない。 しかし今岬の側にいる俺は、公私に渡って知り尽くしている。−余りにも近い存在。だからこそ一人、岬はプライドと戦わなければ行けなくなったとしたら。 行き着く思考に冷たいものが全身を駆け巡る。先に愛したのは俺だ。望んだのも俺。それをただ受け入れただけの岬。 今更離してやれない。でも岬を幸せにしたい。出来れば一人で戦う事の無いように… 多分、これは矛盾している。でも…… 「この角度から、切り替えされて取れる?」 今度は少し大振りに振り返る岬の顔は、元の柔らかい笑顔で少しだけ悪戯な色を浮かべている。 「取ってみせる。」 示したプレーは不可能に近いGK泣かせのミラクルシュート。素直な岬にしては意地の悪い質問で。人一倍聡い岬が俺の様子から何か悟った事に気付いたんだろうと直ぐに分かる。 「……………弱気だね。取れるよ、若林君なら。」 懇願するように、努めて明るい笑顔は痛々しく、これ以上は俺に触れてくれるなと全身で拒んで。 「すまん。」 それは今出来る精一杯の謝罪。 「…………………………何が。」 「今から日本の大事なMFの熱心な勉強を邪魔する事だ。」 気付きながら、気付かないふりをする狡い俺の全てをお前にやるから。 だから今だけは… (サッカーも、なにもかも忘れて過ごさないか) サッカーで繋がって、サッカーで離れる俺達の関係には不可能な言葉を囁いた。 end. 何と言う竜頭蛇尾。サッカーは切り離せないから、故に悩むのが書きたかったんですね。悩んで悩んで、でも手放すの無理!みたいな。精神的に甘いシチュが萌えポイントのアンゴラでした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |