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飲んでも、飲まれるな






「不条理だ…」


ボソリと呟く声に岬が顔だけ視線を動かし隣をみれば、僅かに赤みのさした拗ねた顔−−−









癖のあるビールと軽い夕飯を外で済ませて、一人暮らしには少々大きすぎるソファに落ち着いた二人。

それは岬がオフを利用して若林宅に訪れてから数日。初めてのゆったりとした時間だった。


岬がオフと言えど、若林はまだシーズン中。岬は岬で自主トレを兼ねて若林のチームで練習に参加して。元々真面目でサッカー脳の二人がそんな中で羽目を外せる訳もなく。ようやく巡って来た若林のオフを明日に控え、夕方からこうしてゆっくりと恋人同士らしい時間を作ることが出来たのだ。


と言っても、ソファに座り、二人が見つめる画面には最近の代表の試合。


いつもと違うと言えば、テーブルに置かれているワインとプレッツェル。カリカリと固いプレッツェルをつまみながら、僕らも大人になったんだなと岬が少し感慨深げに思う中、若林は若林で久々にくつろいでいるのか、ワインを飲むピッチが早い。




−−カリカリ
−−トクトク




プレッツェルを摘む音とワインの注がれる音の響く部屋。酔いの分、いくらか饒舌に熱っぽく試合を振り返る岬と、的確に相槌をうつ若林。



この試合は、岬も得点した試合。


後半の残り少ない苦しい時間帯でのゴール。その時の興奮と少し照れ臭いような気分で岬は画面を見つめる。

でも駆け寄り抱き着くメンバーの顔に今見てもやはり嬉しさが込み上げる。


思わず小さく笑う岬に呟かれた若林の一言。

言葉の意味が解らず、岬は目で続きをうながすも、若林は相変わらず拗ねた表情で。


点を決めてみたいのかな…。


岬なりに若林の言葉を考えるも、GKというポジションに絶対の誇りを持っている若林にそれが当て嵌まるとは思えない。


では、なんなのだろう。更に岬が考えを巡らせる暇はなく………画面を見ていた筈がいつの間にか見える天井。

ソファの軋む音と適度に掛かる重みに岬はやっと押し倒された事を自覚する。



「わかっ………はっ…ちょっ、待っ…んっ」


いきなりどうしたと言いたい岬の口はわずかに酔って遅れた反応と一緒に若林に飲み込まれる。

薄く開いた唇差し込まれる舌が性急に口内を掻き回していく。鼻から抜ける呼吸と共に香るのはむせ返るアルコール。

それほど酒には強くないのだ。これだけで十分酔いが周りそうな感覚に、岬の気持ちに焦りが生まれる。


余りに性急過ぎるのだ。


お互い元々ムードや何かを大切にする方ではない。しかし若林はいつも岬が逆に気を揉むくらい気を使う。岬も岬でその配慮が嬉しくて。若林の事だ。どんな状況でも岬自身が本気で嫌がれば止めるだろう。現に頬に添えられた若林の手は優しい。



「ちょ………や、っ……、待っ…」


やっと離れた唇が次は徐々に降下する。今まで経験した事のない強引さに岬は身体が震えるのが解る。

蹴り上げて理由を正すか、このまま流されるか。廻らない頭を無理に巡らせれば、同時にくたりと若林の身体から力が抜けるのを感じる。

追加される重みは心地良いもので、よく解らず背中に回した手で宥める様に背中を叩いてみる。

一瞬震える背中と共に、首元で聞こえる掠れた低い声。



「お前が1番嬉しい時に俺は駆け寄れない。」



不条理だ。小声で付け加えられた言葉はまた拗ねたような響きを持って。


全く、君って。


解ってしまえばなんとも可愛いらしい。嫉妬と言うには余りに切実で、根本的で。



「悪かった。シャワー浴びて来る。」



酔いに任せて吐き出した為、罰が悪いのか、まだもぞもぞと喋りながら離れようとする体温を回した腕に力を入れて制する。

またピクリとする身体は抵抗を諦め、岬に戻って来て。いつに無くしおらしい若林の態度に噴き出してしまいそうになるのを必死に堪える。



「馬鹿だよ。嬉しくて抱き着く事はあっても、抱き着いて嬉しくなるのは君だけだよ。」


酔っ払いは吉良さんだけで十分だと思ってたんだけどなぁ。



茶化す様に付け加えて、自身の照れは隠して。


再びポンポンと叩いた大きな背中は子供の様に温かかった。






end.







酔っ払っちゃったネタ。みー君の男気を感じて頂ければ…





 




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