頂き物 1 オフホワイトの太股あたりまである柔らかいカットソーに、優しいグレーの前開きのベスト、細身のジーンズ。 腕には恋人とお揃いの、シンプルなシルバーの時計。 日向が自分なりにお洒落した格好は…… 今日のデートの為で、これから会う恋人の為である。 ただ、これから恋人とデートだと言うのに日向は浮かない顔をしていた。 待ち合わせ場所で、携帯を不安げに見つめる日向。 約束の時間……11時を過ぎても、肝心の恋人が来ないのだ。 ………連絡も来ないなんて… 来る途中で何かあったとか……急に具合が悪くなったとか… ………行きたくなくなった、とかだったら…でも…… 昨日は、電話で普通だった筈けど… 色々な不安と、恋人の顔やら声やらが頭を巡る。 携帯をカチカチやって、恋人の名前、北井浩也の文字を呼び出す。 「…浩也くん……、」 何度通話ボタンを押しても、出なかった。 直接家に行った方が早いかもしれない。 日向は眉を下げたまま、何度も通って行き慣れている浩也の家へと急ぐ事にした。 そわそわしながらインターフォンを押しても、反応は返って来ない。 「………、」 めげずに何回かインターフォンを押すと、しばらくしてバタバタする音が聞こえて… …とりあえず、浩也が居る事にほっとしているとドアが開いた。 「あ…浩也くんっ…、」 「……っ、ヒナっ、あ……」 眠そうな、まだ覚醒さえしていないような浩也の顔。 寝癖のついた髪。 見慣れた黒いTシャツに、スウェット姿。 「…ごめん…今、起きた………」 「………」 「ひ、ヒナ…、本当ごめんな、今すぐ支度するから、」 固まっている日向に、焦る浩也。 こんなに焦っている浩也は、いくら日向の前でもきっと珍しい。 「い、いいよ浩也くん…」 「え、ヒナ……」 「…僕が、行きたがってただけだから……」 今度は浩也が固まって、靴を脱いだ日向がその横を、す、と通り過ぎる。 日向が横を通った時、なんだか冷たい風が流れた気がして。 何も言わずに家に上がる日向をすぐに追いかける浩也。 「お、おい…ヒナ、怒ってるのか?」 「………、怒って無い、よ……」 浩也が日向の前にまわり込むと、ふい、と小さな顔を背けられてしまう。 浩也は、ある意味初めての日向の拒絶にショックを隠せずにいた。 「…ひ、ヒナ……日向、ごめんな、本当にごめん、俺本当馬鹿だ、」 がっくりとうなだれて謝る浩也を、日向がちらちらと気にしている。 「……浩也くん、あの、怒ってないから…」 「………日向、でも…、」 「…ちょっと寂しくて……、悔しかっただけだから、」 いじけたような、拗ねたように嘆く日向。 こんな時なのに、日向のそんな表情を可愛いと思ってしまって、 顔を上げさせて、キスをしたいなんて…… 今それをやったら一生許してもらえない気がして、浩也は手を引っ込めた。 「僕だけが…楽しみにしてたのかなって……」 「ヒナ…、」 「でも、僕が一方的に誘った事だし…それでも、しょうがないのに………大人気ない事して…、ごめんなさい、」 一方的なんて、そんな事決して無い。 楽しみで、ヒナの事考えてたら…なんて言い訳かもしれないけど、 とにかくヒナが謝る必要なんてなくて、 俺が謝るべきなんだ、 「ヒナ……、信じてもらえないかもしれないけど、俺も楽しみにしてたし…一方的だなんて言わないでくれ…」 日向の薄い肩を握る浩也。 眉を下げて、自分よりも悲しそうな顔をする浩也の腕を、日向がきゅ、と掴む。 「…ごめん、」 「浩也くん……あの、僕信じるから…、それに、浩也君に何かあったんじゃないかって思ってたけど、何もなくて本当に良かった、」 「……っ、ヒナ、」 ふんわりと、癒すような微笑みに浩也が思わず抱きしめた。 びっくりした日向は少しよろけながらも、浩也の体温に頬を染める。 「ヒナ、本当にごめんな……、ごめん、」 「あ…だ、大丈夫だから…、く、苦しいよ浩也君…、」 ぎゅうぎゅうと抱きしめる浩也に、溺れるように上を向いて酸素を取り込む日向。 「……、今日は、日向の言うこと何でも聞くから。」 「…え、そ、そんな……僕気にしてないし…そんなの、」 「…駄目だ。 俺の気が済まない。」 体を離した浩也にじっと見つめられて。 日向の手が両手で握られて、愛(いつく)しむように撫でられる。 駄目、というある意味の命令に迷っている日向。 言う事を聞くと言われても、何もしてもらおうという気は無くて… → [*前へ][次へ#] [戻る] |