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過去拍手
醒夏 番外B



少し気恥ずかしいけれど……今は伝わる温もりだけを、しっかりと受け止めたい。
聖一は何も喋らないが、こうやって散歩みたいに歩けるだけで嬉しかった。


明日、今度は二人一緒に街を後にする。
そう考えると見慣れた景色も感慨深く目に映り……初めて出会った公園へ向かっていると分かった時には胸がキュッと痛んだけれど、何となく意図が伝わったからそのまま彼に従った。





****





春休みにも関わらず人の居ない公園は、六年前より寂れていたが変わった物は何も無い。


「変わらないな」


声に出してそう告げると、隣で彼が頷いたのが視界の端に入って来た。


握る掌に力が込められ引かれるままに歩を進めると、ブランコの前に着いた所で聖一がその足を止める。


「座って」


落ち着きのある静かな声。
拒否するような事じゃ無いから貴司は黙って彼に従い、手を繋いだまま体を回してブランコへと腰を下ろす。


「俺、初めてだ」


これを揺らす聖一をスケッチしていた貴司だけれど、自ら乗るのは初めてだったと気付いて少しはにかんだ。


「貴司が……謝りに行きたいって言った時、また縛りたくなった」

「え?」

「俺以外と話して欲しくない。俺以外を見ないで欲しい……いつもそう思ってる」


驚いて顔を上げて見ると、見下ろして来る聖一の顔はその心を表すように眉間に皴が寄っている。


「だけど、貴司に嫌われたく無いから……」

「分かってる。セイが、小林さんに頼んでくれたんだろ?」


告げられたのは初めてだが、この半年……彼が彼なりに変わろうとしている事は貴司にもちゃんと伝わっていた。だから鎖で繋がれなくても極力外には出なかった。
それに、こうゆうのは一般的にはおかしいのかもしれないけれど、彼が自分を欲していると感じるだけで心の奥が満たされる。


「俺も……セイが学校に行ってる間、不安だった。友達が出来ればいいって思うのに、セイが帰って来なかったらとかそんな事ばかり考えてた」


同じなのだと伝えたかった。
聖一が貴司の事を想う気持ちと同じ位、自分だって彼を凄く大切に想っている。
それを"依存"だと言われてしまえばそうなのかもしれないが、その感情の名前なんて、この際どうでもいい事で……。


『嫌われたく無い』
と言ってはいるが、それだけで動いたとは貴司には思えなかった。
怯えるであろう日向の為に、あんな風に現れたのが彼の変化を示している……と。


「セイが来てくれて……嬉しかった」


笑みを浮かべて見上げると、僅かに彼の表情が緩みスッと顔が近付いて来る。


「!?」


唇に軽く触れたそれが聖一の口と分かった時には既に離れてしまっていて、驚きのあまり目を見開くとクスリと笑う声がした。


「誰も居ないから大丈夫。俺は見られても構わないけど……」


確かに……きっとこの角度では、車道からも彼の背中しか見えないだろう。だけどこんな危うい事を外でされれば恥ずかしい。


「貴司はすぐ、顔に出るね」


火照った頬へ、繋いでいない方の掌がフワリと触れる。


「貴司が居れば他の事なんかどうでもいいって思ってたのに、彼には謝りたいって思った。貴司がしつこかったからかな?」

「そうかもな」


本当はそうじゃ無いって聖一はもう気付いていると、確信に近い気持ちを抱いて貴司はそう呟いた。


「ここで、セイに声掛けた事……後悔した事もある。でも今は、良かったって思ってる」

「本当に?」

「ああ」

「俺、また貴司を繋ぐかもしれないよ……それでも?」

「うん、セイがそうしたくなったらしていいよ」


色々な事がないまぜになって矛盾している所もあるが、彼がそのままを見せて来るのは本当に珍しい。
自分の本気が伝わるように握る指に力を入れると、それに応えるかのようにギュッと掌が握られた。


「俺も、貴司に会えて良かった」


ほんの短い言葉の中に潜む彼の深い想いは、声にしなくても貴司の心にじんわりと染みて来る。


約束も、誓いも……この公園からまた始めたいと願う青臭い感情も、全てちゃんと分かっていると告げたくて、でも言葉にすると嘘臭いから貴司はスッと立ち上がると、聖一の髪へ手を伸ばす。


「ちょっと屈んで」


周囲に視線をサッと泳がせ誰も居ないのを確認してから、貴司は彼の頭を引き寄せその唇にキスをした。





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あきゅろす。
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