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暁闇番外C

 市ノ瀬瑛士(いちのせえいじ)は世間一般で言われるところの、チンピラと呼ばれる部類に入る人間だ。ヤクザとまでは行かないが、それに寄生しある程度の収入を得て生活をしている。

 ここ数年はその寄生主が、佐伯と呼ばれるヤクザだったが、それも一ヶ月くらい前から、定期的に来ていた連絡がプツリと途絶え、音信不通になったままだ。

 ――おおかた、コイツのボスから手が回って、動けないって所だろうが…… 。

 瑛士は大柄とまではいかないが、それなりの上背があり、筋肉もしっかりついている。人目を引く美しい容姿をしていることも自覚しているし、過去に何度か街でモデルのスカウトを受けた事もあった。

 だが、そんな華やかで綺麗な世界では、自分のような人間は生きていけないことを知っている。なにせ、幼い頃から瑛士は自分の体ひとつで生きてきた。

 それが、何を意味しているのかを…… 分からないような人間なんて、綺麗な建前に押し潰されてみんな死ねばいいと思う。

「お前、結構な数のアダルトビデオに出演してるな。裏でしか取引されないが、かなりの人気だと報告を受けてる」
「アンタ、暇なのか? 」

 本当なら、殴りかかってやりたいところだが、状況がそれを赦さないから、瑛士は嫌味を込めて毒吐き、馬鹿にするように口端を上げた。

「そうかもな」

 それを容易く受け流す男は、瑛士よりも一回り以上体格がいい。以前会った時にはキッチリと黒い髪を整えていたが、今は前髪を下しているから、実際の年齢よりもかなり若い印象に見えた。そして、瑛士自身、相当な場数を踏んでいるから分かる事だが、仮にサシで勝負を挑んでも、きっと敵わないだろう。

「俺は仕事をしただけだ。佐伯が責任取ったんなら、こんな扱い受ける謂われはねえだろ。牙を折るって言ったけど、アンタには無理だ。お坊ちゃまのボディーガードなんかしてるお綺麗なお医者様に、そんなことが出来るわけ無い」

 余裕ありげな男の態度が勘に障って仕方がなかった。だから、煽るような言い方をしたが、男は表情一つ変えず、腹へと指先を下していく。

 間違えた事は言っていない。男相手のハードな調教物だと聞いて現場に行ったら、そこにいたのが目の前の男が警護をしている男の雇い主のオンナ≠セったというだけだ。オンナ≠ニ言っても貧相で地味な男の大学生だったのだが、見覚えがあったから、いつも以上に手荒に扱った。

「へえ、俺が医師になった事、知ってたんだ」
「っ! 」

 臍の中へと指を挿しこまれ、瑛士は体を捩ろうとするが、逃れようにも可動範囲が少なすぎるから不可能だった。しかも、自分の失言に気づかされ、心臓が大きく脈を打つ。

「ネコは絶対やらないって噂は本当か? 」
「アンタには…… 関係ない」

 どうにか言葉を紡ぎ出し、必死に虚勢を張るけれど、そんな反応を楽しむように男は臍を掻き回し、あろうことか、下生えへと空いている手を伸ばしてきた。

「八年前に会ったときは、もっと素直だったのに」
「うるせえっ、それ以上喋ったら、ぶっ殺すぞ! 」 

 ため息混じりに言われた言葉に、頭へと血がカッと上る。無茶苦茶に暴れ抵抗しても、金属音が響くだけだが、罵声を浴びせて唾を吐き出すと、男の表情が僅かに曇った。

 たったそれだけのことで溜飲を僅かに下した瑛士だったが、次の瞬間股間を襲った激しい痛みに、体を大きく仰け反らせ、情けなくも悲鳴を上げることとなる。



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