過去拍手 醒夏 番外I **** アナルに感じた違和感に、貴司は意識を覚醒させた。 「っ……セ、イ?」 「まだ寝てていいよ」 「ん……ぁっ」 どうやら意識を飛ばしていたのは長い時間では無かったらしい。 俯せにされ、腹の下には枕か何かを差し込まれ、尻を掲げたような格好に貴司は酷く動揺したが、挿し込まれている聖一の指が何をしてるか分かってるから、逃げる事も出来なかった。 「……ごめっ、後は自分でやるから」 「いいよ、貴司は楽にしてて」 「いや、でも……」 この体勢で意識があるのは正直かなり恥ずかしい。 「いつもの事だろ?そうやって恥ずかしがるのも可愛いけど……あんまり煽らないでくれる?」 「あぁっ!」 煽ったつもりなんて無いのに引っ掻くように爪を立てられ、快感を得た貴司の口から艶を帯びた声が上がる。 「あ、ごめん。痛かった?」 「……大丈、夫」 絶対わざとだと思ったが、悔しいから……なるべく普通に返事をすると、クスリと笑う声が聞こえて指がツプッと引き抜かれた。 「はい、お仕舞い」 「……ありがとう」 ポンッと尻を叩かれて、弾かれたように体を起こすと、貴司は素早く視線を巡らせ体を隠す物を探す。 「そのままでいいよ」 「ヤダよっ、俺だけこんな……」 聖一は服を着ているのに、自分だけが一糸纏わぬ格好なんて嫌だった。 「我が儘だね」 困ったように息を付かれて『そんな馬鹿な』と貴司は思うが、意地悪な笑みを浮かべる彼に、本気で反論して見せるのも大人気無いと口を噤む。 「ちょっと待ってて」 シーツを剥ごうか考えていると聖一がドアの向こうに消え、少ししてからバスローブを手に貴司の前に戻って来た。 「ほら、これ着てなよ」 「ありがとう」 それを羽織るとようやく気分が落ち着いて……貴司は腕を前に伸ばすと聖一の腕をギュッと掴んだ。 「ゴメン。疑って……俺、えっと……」 「貴司の気持ちはさっき聞いた。それより……」 「んぅっ」 身体ごと強く抱き込まれ、彼の匂いが鼻腔を擽る。 「ちゃんと安心出来た?」 耳元に響く優しい声に、貴司は何だか泣きたいようなそんな気持ちに包まれた。 **** 「大学に、友達なんていないから」 阿由葉の名前や自分の容姿が、どう周りに作用するかは子供の頃から知っている。 それだけが理由じゃ無いとは思うけど……友人と呼べる人間など、今まで一人も居なかった。 「そんな……だってセイ、友達居るって……」 「それは貴司が心配するから……周りに人は寄って来るけど、友達ってどうゆうモノか俺には全然分からない」 「……っ」 腕の中から自分を見上げる貴司の微妙な表情に、彼の気持ちは読み取れたけど、敢えてそのままを言葉にする。 「貴司に会うまで誰にも興味が無かった。おかしいのかもしれないけど、今更どうにも出来ないよ」 だから、自分の気持ちをぶつける場所は貴司以外にありえない……そう告げると、貴司の頬にほんの僅か朱が差した。 「……俺も、友達居なかった。セイみたいに興味無かった訳じゃ無いけど……」 今思い至ったのだろう……困惑している彼の様子に、何だかおかしな気分になる。 「もういいよ。何が正しいかなんて、難しく考えても答えは無いでしょ?俺が言いたかったのは……だから、貴司が不安がる必要は無いって事」 そう、友達が居ない相談をしたい訳じゃなく、貴司を安心させたいだけ。 これまで何度逃げられようとも捕まえて、酷い仕打ちを強いたから……貴司が自分を好きだと言っても、半分位は情じゃないのかと思っていたし、手に入れば……それでも全く構わないと思っていた。 だけど……。 「貴司が妬いてくれたの……嬉しかった」 額にキスを落として告げると、背中に回った彼の指先にギュッと力が込められる。 「俺、今までセイを受け止めようって……そうすれば、俺の気持ちも伝わるって思ってた。言葉にしなきゃ分からない事もあるって知ってた筈なのに、いつも側に居るから……セイの優しさに甘えてた。ごめんな、俺、ホントに……」 セイが好きだ……と、続いた言葉を最後まで紡がせてやるだけの、心の余裕はもう無かった。 「ふっ……んぅっ」 彼の唇を自分のそれで深く塞ぎ、舌で舌を絡め取る。 無理矢理側に置いた自覚があったから……いくら貴司が受け入れようとも、拭い切れない不安は常に付き纏い、だけどそれを口に出す事は自分の立場じゃ出来なかった。 「んっ……んうぅっ」 背中をドンドン叩かれるけど、止めてなんてあげられない。 胸を満たすこの感情が、喜びなんだと分かってしまえば余計に気持ちが昂って……自制が全く効かないままに、聖一は……貴司の身体を貪った。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |