過去拍手
醒夏 番外E
「違う、セイ、聞いっ……うぅっ!!」
強い力で下着ごとスラックスを引き下げられ、摩擦で肌が痛むけれど気にしている場合じゃ無い。
「……貴司はイキたく無いんでしょ?」
「違っ」
「違わない」
「違うんだ!」
勢い良く起き上がって聖一に抱き着くと、驚いたのか珍しく……身体がビクリと反応した。
「そうじゃ無くて、俺……」
「……何?」
耳元で囁く声は気のせいかもしれないけれど、優しいような感じがする。
―――言って……良いんだろうか?
こんな気持ちを彼に告げて、呆れられたりしないだろうか?
感情を外に表すのは、はっきり言って得意じゃ無い。
聖一を……信じていない訳じゃないが、悪い想像ばかり浮かんで心の中に迷いが生じ、身体が細かく震え出した。
「言わなきゃ、分からないよ」
そっと頭を撫でられる。
同じような言葉を今まで何度も貴司は言われて来た。
学校でも、バイト先でも……短い間一緒に暮らした歩樹にも。
『黙ってたら、相手にとっては何も考えて無いのと一緒だ。黙ってても伝わる事はあるだろうけど、そうゆうの、俺は緩慢だと思う。声にして、ちゃんと伝える努力をしないと、大切な時に言葉が出なくなっちゃうよ』
歩樹がいつか言ってた言葉が頭の中に流れて来て……貴司は背中を抱き締めた指へ一層の力を込めた。
―――今なら、分かるような気がする。
今までだって分かって無かった訳じゃ無い。
だけど、頭で分かっているつもりでも、伝える努力が出来ていたとは言い難い……と、貴司はようやく気が付いた。
「……セイが」
意を決して声を出す。
どういう結果になったとしても、受け止めなければきっと前には進めない。
―――面倒だって、呆れるかもしれないけど。
もしそうなってしまっても、捨てられたりはしないだけの繋がりはきっとある筈だし、それだけは……疑っちゃいけない事だと身を持って知っていた。
「ん?」
「セイが学校にいるの、初めて見て……友達、沢山いて……俺、安心して、良かったって思った」
「そう。……で?」
促して来る聖一の声に急かすような響きは無く、それに安堵した貴司はコクリと唾液を喉に送る。
「だけど……セイにくっついて名前呼んでた女の子に、モヤモヤして……あと、あの路地でセイと話してた人……」
「アヤさん?」
「……うん、俺、セイの事、何にも知らないって思って……それで、セイ格好いいからモテるって思って……こうゆう場所も、来慣れてる感じだったし、だから……」
上手に言葉が紡げない。
我ながら、子供みたいな言い草だと……恥ずかしくなって唇を噛むと背中に回った聖一の腕にギュッと力が込められた。
「だから?」
甘く声音を変えた言葉に頬の辺りが熱くなる。
「……多分、俺は……嫉妬したんだと思う」
認めるのは恥ずかしいが、この感情を表す言葉を他に思い付か無くて……素直にそれを口に載せると意外に心がスッキリした。
「セイの気持ち、疑って無いけど……俺はセイと違って、取り立てて凄い所とかないし……外に居るセイ見たら、なんだか不安になった」
一度外に出してしまえば、どんどん想いが溢れ出す。
自分が話をしている間、トントン背中を手で叩いてくる聖一の優しさに……鼻の奥がツンとして、眦が熱を持ち始めた。
「やっと認めた」
耳許に低く囁かれ、彼には全て知られてたんだと分かったら……急に身体がフラリと揺れて、腕から力が抜けてしまう。
「……セイは初めから、分かってたんだよな」
彼は最初から『妬いてくれたの?』と言っていた。
た易く見透かされてしまうから、隠し事なんて出来やしないと思った貴司が問い掛けると、力の抜けてしまった身体が強い力で引き寄せられる。
「貴司は……俺が何でも分かってるって勘違いしてない?」
「……何でもとは、思わないけど……んぅっ」
大抵の事はお見通しなんじゃないのかと……言おうとしたら、耳朶を舐められ擽ったさに吐息が漏れた。
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