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過去拍手
醒夏 番外C



「見れば分かるだろ?」


飄々とそう答える声に、唇をキュッと噛む。
聖一が焦る所など想像も出来ないが、こんな場面を見られておいて流石にそれは無いと思った。


「分かるけど……こんな所でされたら困るよ。一応この道、ウチの敷地だし」


それに対する相手の声も呆れたような響きはあるが、驚いている様子は無く……それが貴司の頭の中を更に混乱させてゆく。


「そうだったね……でも、アヤさんが止めるなんて珍しいじゃん。いつもは見て見ぬ振りしてるのに」


「彼、嫌がってるみたいだったし……それに聖君久しぶりだから、つい声掛けたくなっちゃった」


会話から……知り合いなのだと悟ったけれど、だからといって"良かった"などとはとても貴司には思えなかった。どこからなのかは分からないが、見られた事に違いはない。


「嫌がってなんて無いよ……ね、貴司」


「っ!」


腰を抱く腕に力が篭り、首筋にペロリと舌が這う。
止めるようにと告げたいけれど、喉に何かが張り付いたように声を出すことが出来無くなった。


「アヤさんが驚かすから怯えちゃったじゃん」


「えっ?僕のせいなの?」


「……違っ」


ようやく絞り出した声も掠れてしまって情けない。
思わず助けを求めるように聖一の腕をギュッと握ると、「ごめん」と小さく囁く声が貴司の耳に入って来た。


「ホントに怖かったんだね」


腕を腰から離した彼が、背後からそっと体を包む。
カタカタ震える自分の体を止める事さえ出来ないままに、肩越しに彼を振り仰ぐと、チュッと頬にキスをされて貴司は真っ赤に頬を染めた。


「離っ!」


「大丈夫だよ、知り合いだから」


「そうゆう問題じゃっ……」


「そうそう彼氏の言う通りだよ。ガッツキ過ぎると嫌われちゃうよ」


横合いから、助け舟とも言える言葉が貴司の耳に入るけど、痴態を晒した相手と思うと素直には喜べない。


「アヤさんには言われたく無い……ね?貴司」


「……」


どんな関係か知らない自分に、同意なんか求められても答えられる筈も無い。


下らない会話を続ける二人を視界に入れながら……貴司は内心少し呆れた。
気付けば震えも止まっていて……。


「……じゃあまた来るから、オーナーによろしく」


「今日来るんじゃなかったの?」


「とりあえず日を改めるよ。貴司も限界みたいだし……ね」


「俺は別に……」


「そう?でも、俺は限界」


「セイっ」


一体何を言い出すのかと聖一の方を睨みつけると、笑みを唇に浮かべた彼が今度は額にキスを落とす。


「愛されてるね。彼氏大変だ……まぁ、準備は出来てるから、今度仲良く遊びに来てね」


「了解」


固まっている貴司を他所にどんどん話が進んでいって、ようやく腕が離れたと思えばすぐに掌を掴まれた。


「行くよ」


「え?……なっ……」


来た方向へと歩き出されて、引かれるがままに従いながらも貴司はアヤという人物に、ペコリと小さくお辞儀をする。


ヒラヒラと手を振りながら、
「頑張って」
と掛けられた声にまた恥ずかしさが込み上げてきて、軽い眩暈に襲われた。





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