過去拍手
醒夏 番外B
「面接どうだった?」
「緊張してたから良く分からない。それなりには応対出来たと思うけど……」
「そう、通るといいね」
他愛ない会話をしながら本屋での買い物に付き合い、彼に手を引かれるがままに奥まった路地へと入る。
「セイが大学にいるの初めて見たけど……友達、一杯いるみたいで良かった」
「友達?」
「うん。家じゃあんまり話さないから知らなかったけど……セイ、人気者なんだな」
彼の恰好良さを思えば人が集うのも理解出来る。
きっと女性にもモテる筈だと考えを巡らせた所で、そんな事にさえ気づけなかった視野の狭い自分に呆れた。
「どうしたの?貴司、なんか変」
ふいに歩みを止めた聖一が、顔を覗き込んで来る。
「そんな事無い。今日は色々あったから、疲れただけだよ」
「嘘、何か隠してるよね?」
俯く顎を指で掬われ真っ直ぐ視線を合わせられれば、彼を騙す言葉なんて器用に紡げる訳も無い。
「大した事じゃないんだ。唯、セイは……モテるよなって思っただけで」
なるべく素直に言葉にした。
変に取り繕おうとすれば誤解を生むのは分かっているし、面と向かって彼を褒めるのは気恥ずかしいが仕方ない。
「へえ……」
目線の先、端正な顔が驚いたような色に染まる。
だけどそれは一瞬の事で、すぐにニヤリと笑った彼に、貴司の胸に言いようの無い不安感が湧いてきた。
「妬いてくれたの?」
「そんなんじゃ……っっ!」
"無い"と続く筈の言葉は聖一の口に遮られ、いきなり仕掛けられたキスに貴司は瞳を白黒させる。
「んっ」
こんな所で何をするのかと胸を押そうとした腕は、彼に手首の辺りを掴まれそのまま壁に押し付けられた。
「ふぅ……っ!」
咥内に入り込んで来た舌に驚いて頭を振るが、深く中に入り込まれてそれすらも侭ならない。
更に脚の間に膝をスッと割り入れられてしまい、股間を軽く刺激されて貴司は体を戦慄かせた。
「う……んぅ」
路地に入った所とはいえ、いつ人が来てもおかしくない。
そんな事も分からないなんて有り得無い筈なのに、いくら身体をよじってみても行為を止めてはくれなくて……。
「ん……んっ」
強引に熱が高められ、慣らされた身体の奥から疼きが込み上げて来る。
それでも理性を必死に繋いで聖一の顔を睨み付けると、怯んだ様子は無かったけれど彼の動きが一旦止まった。
「っ……バカ、こんな所で、人が来たらどうするっ」
ようやく口を解放され、咳込みながら貴司が言うと、焦点の合った視線の先で聖一が薄い笑みを浮かべる。
「だって、貴司が可愛い事言うから……我慢出来なくなっちゃった」
「俺は……妬いてなんかない」
悪びれる様子も無くそう言い放つ彼の姿に、そこはどうしても認められずに貴司は直ぐさま反論した。
本当は……視線を僅かに逸らした時点で敗北は見えていたけれど、恥ずかしさが先に立って素直になんてなれなくて……。
「そう?……まあ、貴司がそう言うなら、そういう事にしといてあげるよ」
手首がスルリと離された。
余裕あり気な表情に……悔しいような気分になるが、そんな事より一刻も早くこの体勢を何とかしたい。
「夕飯、食べに行くんだろ?」
ぎこちなく話題を変えて、聖一と少し距離を取った。
ここまでのやり取りは時間にしては短かったが、誰も通らなかったのは運が良かったと貴司は思う。
「うん。でもその前に、寄りたい店があったんだけど……気が変わった」
「え?」
「この道、奥にある店で行き止まりだから滅多に人……通らないんだよね。ねぇ貴司……ここでスる?それとも近くのホテルに行く?」
「っっ!お前、何言って……」
耳元で低く囁く声に、心臓が鼓動を早めた。
「すぐ抱きたいって言ってるんだけど」
「なっ……やめっ」
離れようとした瞬間……背後から腰に腕を回され、緩く反応していたペニスを布越しにキュッと掴まれる。
「こんなになってるのに、飯なんて無理でしょ?」
「やめっ……そのうち収まるからっ」
喉をククッと鳴らす音に顔に熱が集まった。
逃れようと手を掴むけど、抵抗さえも愉しむように股間をヤワヤワ揉んだ挙げ句、耳朶を甘く噛んで来る。
「俺が収まらないよ」
「お前、ホント……止めっ」
「……こんな所で、何やってるんですか?」
冗談じゃないと思った貴司が大きく身をよじった所で、突然響いた知らない声に……今度は一気に血の気が引いて、体が小さく震え出した。
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