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三周年記念
8



***



「んっ……ふぅっ」


唇がやっと離れた時には呆けたようになっていて……そんな貴司の髪を撫でながら聖一がフッと微笑んだ。


「気持ち悦かった?」


「……セイ、ごめ…俺、舌……あっ」


唇の端に滲む赤に、我に返った貴司は焦った。どうやら必死に噛み付いた先は、舌では無く、彼の唇だったらしい。


「ああこれ?大丈夫だよ。貴司、咬むの迷って震えてたから、俺が舌を引いたの気付かなかったんだね。それに……謝る必要なんか無い」


ホント貴司は優しいね……と、続けた彼が腕を伸ばし、包むように抱き締めて来るから、安堵の余り涙腺が緩んで涙が一筋頬を伝った。


「一番、しちゃいけない事だって分かってるのに、俺……子供みたいだ」


僅かに体が震えているのに気付いた貴司は抱き締めたいと思うけど、腕は背後で括られているからそうする事は叶わない。


「俺も、ちゃんと言葉に出来なくて……ごめん。セイが怒ってるって途中まで気付けなくて、どうすればいいかわからなかった」


「怒ってなんかなかった。違うな……貴司の意思を尊重したいから、我慢しようって思ってた。だけど途中で制御出来なくなった……て、いつもの事だね」


本当に成長しないと言った聖一が溜息を吐いた。


「貴司が止めてくれなかったら、もっと酷い事してたと思う」


「それは……」


何も言えずに流されたから自分も同じと言いたかったが、彼の表情を見た途端……言葉は喉に張り付いた。


一瞬、泣いてるのかと思ったから。


「俺……小さい頃、血の繋がった父親に、今貴司にさせた事、毎日させられてた。訳が分かんなかったから、それがトラウマになってるなんて事は無いと思う。だけど、動けなくしないと逃げられるっていつも思う。父親の顔なんか、殆んど覚えてないけど、撫でられた感触は、今でも良く覚えてる。貴司に酷くする度、この血が怖くなる。血の所為(せい)にして逃げるつもりは無いけど……」


「セイ、お前……」


淡々と言葉を紡ぐ聖一の姿に息をのむ。
幼少の頃の彼の話を聞いてみたいと思ったけど、あまり覚えていないと言われてそんなものかと思っていた。


子供の頃の記憶には、個人差があると知っていたから、あまり気にもしなかった。


「……セイとその人は、違うだろ」


きっと、話すつもりは無かったのだろう。


表情はあまり変わらないが、戸惑ってるのが空気で分かる。


貴司を監禁していた時、いつも全てをこちらの所為にしていた彼が、父親からの行為については影響されていないと言う。


全く変な話だが、自分を制御出来ない理由を、血や生い立ちの所為にしたく無いんだという彼の思いと、心の奥に宿る不安がない交ぜになった結果口から零れ出てしまったのだろう。


「今、話した事、後悔してるだろ?でも俺は、セイが話してくれて、嬉しいって思う。大丈夫だよ、セイはそのままで……変わろうとしなくていい。俺は、どんなセイでも好きだから、それに……いざとなったらさっきみたいに抵抗出来る。ただ、俺はセイが好きだから、出来るだけ受け止めたいっていつでも思ってる」


背筋を伸ばして顔を近づけ、唇に軽くキスをした。


彼は気付いていないのだろうか?


どんなに激しく攻め立てようと、貴司の心に愛情はいつも伝わっている。
それが強い独占欲だと分かるから……結局貴司は満たされる。


今日だって、もしもこのまま続けられても、最終的にはきっと彼と抱き締め合って眠った筈だ。


―――俺も……おかしいのかもしれないな。


「貴司は、甘すぎるよ」


「違うよ。セイと同じで下手くそなだけだ」


自分の方が年上なのに、情けないと思いもするが、そう思えればまだ成長の余地はあるのではないだろうか?


―――それに、変わるばかりが成長じゃない。



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