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good night(PL)


薄暗い寝室。
聞こえるのは止む事のないこの都の水音だけ。
執務に追われ、くたくたの体は真っ直ぐにベッドへと足を向かわせた。

ふと、違和感に体が止まる。

目の前の、毎日寝ているベッド。
それは毎日メイドによってきちんとベッドメイキングされている筈で。だが今夜のシーツは乱れ、そして不自然な膨らみが一つ。

ブウサギか、曲者か。

「まったく」

こんな間抜けな侵入者は一体誰なのか。
そろりとシーツをめくる。
そこからは見覚えのある赤い頭。

「んん」

月光に照らされ、身じろぐ子供の頬を撫でてみる。いつからここにいたのだろうか。
ベッドに腰を下ろすと、その振動で侵入者―――ルークはその目をゆっくり開いた。

「起こしたか」

彼の頭はまだ眠っているのか、ぼんやりとピオニーを見たまま。ピオニーは笑って、その頭を撫でる。

「へ、いか」

そうしているうちにルークはまどろみから抜け出し、その目を大きく見開いた。

「あの、その、これは」

言い訳を探して、ルークが口を開いたり閉じたり、目を泳がせたりさせている間にピオニーはベッドへと入り込む。
ルークが寝ていたおかげで、いつもより暖かった。疲労の溜まった身体はすぐに眠りへ誘う。

「いいから、ほら」

丁度ルークの頭がくる辺り。 そこに片腕を広げ、ピオニーはルークを促した。
今度は目を白黒させていたルークだったが、結局おずおずとそこにおさまる。
ぽかぽかと心地好い人肌の温度。さざ波のように睡魔が襲う。

「眠れなかったか」
「べつに、そんなことは」

ルークも再び眠りに落ちようとしているのか、小さな声で答えた。
強がりだろう、とピオニーは思う。
彼がよく悪夢にうなされ、眠れぬ夜を過ごしているのは知っていた。無理もない。
ただそれを彼が自分の口から告げる事はないだろう。

「そうか」

ぎゅっと両の目を閉じる子供。
その身体を抱きしめようとした腕。それは一瞬、躊躇する。

理由がなんであれ、この少年は罪人だ。
どこからか、そう声がする。許すのか、と。

皇帝である自分と、一人の男である自分がせめぎあう。
だが、己の服を少しだけ掴んだ彼の頭小さな小さな、求め。
それは渦巻く葛藤を押し流すに十分だった。

「おやすみ」

その身体を抱きしめ、目をつむる。

どうか今宵だけは。



あきゅろす。
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