耳に届かない唄 どんどんと渦に巻き込まれる。 その真ん中に何がいるのか分からずに。 「何があったんだ」 アッシュが落ち着いた声で聞いた。 あれからしばらくしてバチカルからキムラスカ兵が到着、それを指揮していたのがアッシュだった。 第七音素についての報告をティアから受けて、出立の手筈を整えていたところに今回の一報が届き、そのまま兵を率いてやってきたらしい。 「ネミッサがセイレネスに触れたら、消えてしまったのよ」 ティアが答える。今までの大まかな話を聞いたアッシュはネミッサを見た。 ネミッサの片目、トトとは逆の左目には包帯が巻かれている。 「正しくは乖離した、だな」 彼女に触れたセイレネスは乖離した。彼女の左目と共に。 それを見た二匹は危険を感じたのか飛び去っていった。 「セイレネスの第七音素とレプリカの第七音素が何らかの反応をして乖離した…?」 丁度イオンがティアの障気と共に乖離した時と近い。 皆、あの光景を思い出したはずだ。 「セイレネスの一部でも残っていれば調べる事ができたでしょうが、全て乖離してしまいましたからね」 ジェイドはネミッサを一瞥し、お手上げのポーズを見せる。 「セイレネスが彼女個人に反応したのか、それともレプリカに反応したのか。そもそも触れた事が原因なのか…」 「セイレネスに接触した奴は今までいなかったのか?」 俺が尋ねるとネミッサは首を横に振った。 「もし触れた者がいても帰ってこなかったという事は乖離したという事だ。我々に骸はない」 爪に切り裂かれ倒れたとしても、超振動で吹き飛ばされたとしても、別の要因だったとしても。 そしてセイレネスに接触し今回のような事が起きたとしても。 亡骸がなくては何が原因か確かめようもない。 誰もそれに返す言葉を見つけることが出来なかった。 「失礼します」 沈黙の中、ドアがノックされる。 アッシュが入れ、と言うとキムラスカ兵が一人敬礼をして入ってきた。 「バチカルより伝令です。ダアトからの文という事ですが」 そう言って一枚の手紙を差し出す。 アッシュはそれを読みながら、眉間にしわを寄せた。 「目が滑る…」 どうやらアニスからの手紙らしい。 「まぁ、つまり要約するとフローリアンが話したいと」 相変わらずのアニスの手紙はそういう事らしい。 「セイレネスの事を報告しないといけないですし、それにフローリアンから何か聞けるかもしれませんね」 ジェイドの言葉に皆が頷いた。 前の旅で知り合った中で唯一生き残ったレプリカ。 何か手がかりがあるかもしれない。 アッシュとジェイドは後の事を兵士達に任せ、俺達はダアトへ向け飛び立った。 ←→ |