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【新説】虹色の鱗【モンスターハンター】
29.New
348:◆d2hCxOK7H.
01月29日00時49分59秒 1GTZ5ZrnO

シルバーソルはそのただならぬ雰囲気を察してか、その場から動こうとはしなかった。
怖じ気づいたわけではなく、野生の勘がそう告げているのだ。
今動けば、決死の覚悟を胸に秘めた一撃をまともに喰らうだろうと。


('A`)「…来ないのか?…なら先に行かせてもらう!!」


柔軟な体を十二分に利用し、まるで引き絞られた弓矢のようにドクオは走り出す。
その姿はまさに一陣の風、何人をも寄せ付けないカマイタチのようだった。
大きく弧を描きシルバーソルに接近し、射程範囲に入ったと同時に剣を振り上げ、その眉間目掛けて打ち降ろす。

いつものドクオならば相手が動くまでは、まず攻撃を仕掛ける事はない。
だが兄者やバリスタの面々から教えてもらったのだ。
自ら動かない者には、何も得る資格など無いと。


「むう…ぅ…ッ!!」


怯むシルバーソルを更に圧倒するように、ドクオは叫んだ。
力の限り、持てる力を右腕に集め、渾身の一撃を叩き込む。


('A`#)「おおおおぉぉぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ、だあぁぁぁぁぁぁッ!!!」


堅い甲殻を貫き、厚い皮を引き裂き、その奥にある最も肉質の柔らかい部分に刃差し込む。
瞬間的に霧のような血液が空気中に分散し、あたりに血の雨を降らせる。
そして刃から火竜の最も苦手とする強烈な冷気を噴出させ、更にダメージを負わせる為に追撃をかける。

その表情はまさに鬼の形相、全てを擲ってでも勝とうとする、凄まじい執念が溢れ出していた。


349:◆d2hCxOK7H.
01月29日01時06分17秒 1GTZ5ZrnO

シルバーソルの額の甲殻が痛々しくめくれあがり、弱点ともいうべき眉間を、ドクオの目の前で露にした。
これ以上ない屈辱を味わったシルバーソルの表情は劇的に変化し、その様は猛り狂う竜巻のような威圧感と、地獄の釜を開けたような恐ろしさが混じり合っている。


「ニンゲン風情が……調子に、乗るなよ!!」


素早く体を反転させ、シルバーソルの武器の一つである尻尾を大きく振り回した。
遠心力を伴ったそれは草木をなぎ倒し、空気の層を引き裂いて、恐るべき速度でドクオの脇腹を的確に捉えた。
鈍い音が響き、内臓が裏返りそうになる程の衝撃が、彼の体を鋭く貫く。


('A`;)「ふぐぅ…ッ!?」


胃の内容物を全て吐き出しながら、ドクオは数メートル離れた草むらへと弾き飛ばされた。
力と力の勝負では勝ち目がないのは分かっていたが、シルバーソルの予想外の動きと対応しきれないスピードの前では、例え十分に用心したとしても同じ結果になっていただろう。

ふらふらと立ち上がり再び構えようとするが、目の前がくるくると回転し、思うように体が動かない。
そうしている内にシルバーソルは体勢を整え、すかさず次の攻撃に移る。
巨大な体を左右に揺らし、考えられない質量と加速度を上乗せした改心の体当たりを敢行する。

現状では、それを避けるのは困難を極める。


350:◆d2hCxOK7H.
01月30日01時39分32秒 qtpntzIoO

ならばとドクオは腰に巻いた鞄から掌にのる何かを取り出し、シルバーソルを迎撃するような格好をとる。
策と呼べる代物ではなく、それは気休め程度のものであったが、彼はそれにすら全てを捧げ、邂交する時を待つ。

そしてシルバーソルの顔が目の前に近づいたまさにその時、大きな炸裂音と共に眩い閃光を辺り一帯に撒き散らす。
再び血液が自我をもったかのように空中に飛び散り、更に堅い甲殻までもが砕け散り、足元の草むらへとその残骸を次々と落としてゆく。
ドクオが使用したのは小型の爆弾、小さな樽にありったけの火薬を詰め込んだ特別製の小樽爆弾である。
その炸裂が始まったのだ。

しかしその代償は、あまりにも大きかった。


('A`;)「ッ…ぅああぁぁ…ッ!!」

「コイツ…自分の腕を…!?」


素手での突貫はすなわち、ドクオ本人にも重大な被害が及ぶという事。
生身で大量の火薬の炸裂を浴び、皮膚はただれ、肉は焼け落ち、骨は粉砕し、鉄製の手甲さえも原型を留めていない。
ドクオの肘から先は、既に感覚が失われていた。

最後の爆発を見届けるとドクオは痛みに顔を歪めながらも素早く後退し、シルバーソルの制空圏から脱出する。
そして服の一端を切り取り帯状にまとめ、原型を留めない自らの腕を止血する為に強く巻き付ける。
それだけで意識を失いそうになるほどの、耐え難い激痛が身体中を駆け巡る。


('A`;)「ゼェ…ゼェ…ッ…ハァ……これで…、ようやく対等って…ところか…?」


351:◆d2hCxOK7H.
01月30日02時16分27秒 qtpntzIoO

シルバーソルはただ、困惑の表情を浮かべるだけだった。

今までに無数のハンターと戦い、それらを全て退けてきた。だがそれはハンターの命の「妥協点」を定めた結果であり、ニンゲンと戦うのならば必ずは目にする悲しい現実のはずだった。
誰だって命は惜しい。
たかが一時の富と名声の為に渡る橋ではないと、本能的に感じ取っているのだ。

だからこそ、彼にはドクオの行動が理解出来ないでいた。
彼も他のハンターと同じ、下らないプライドを後生大事にし、金と名声の為に戦い、そして戦いの最中にそれを後悔するような、矮小なニンゲンだと思っていた。
それがニンゲンの業であり、誰にも越える事の出来ない「壁」だと考えていた。

しかし今、目の前にいる男は、その「壁」をいとも簡単に乗り越えてしまうのだ。
なんの躊躇もなく、自らの命を賭して、自分以外のものを守ろうとして、その代償として左腕を生け贄に捧げたのだ。


「ニンゲンよ…何を守る?そこまでして何故、ニンゲンを守ろうとするのだ?…私は数多くのニンゲンを見てきたが、お前のような奴は初めてだ…」

('A`;)「…人間ってのは汚い生き物さ…自らの欲を満たす為にあらゆるものを奪い取り、それでも飽き足らず同族の命までも略取する……でもな」


ドクオは顔を上げ、シルバーソルと向かい合う。
額からは玉のような汗が吹き出し、先程の爆発で受けたダメージを断片的に表している。
それでもドクオはシルバーソルと真正面から向き合い、力強い言葉で続きを口にする。


('A`;)「たまにはいいんじゃないか?そんなロクでもない奴等の為に…大切なものを守る為だけに命を賭ける大馬鹿野郎が居てもさ……?」






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